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第5話

「部長、今日すごく機嫌いいですね」 「そうか?」 「普段は結構厳しい顔してますよね」 「そりゃ、仕事だからな。今日は可愛い部下と飲んでいるからな」 「ごほっ!?」 やはり、部長は酔っている。 ニコニコしながら、焼酎のボトルを抱えて…、この俺を褒めている… 可愛い部下だなんて、入社以来、初めて言われた。 まぁ、手のかかる子ほど可愛いとはいうけど… いや、誰が手のかかる子だ! 俺は少しは成長しているはずだ、多分。 「部長、さすがにボトル1本開けるのはまずいです。明日は仕事ですよ?」 「かまわん。俺は歳のせいか、5時になると目が覚める。どんなに酔っててもな」 「ええ…」 いや、俺はもうそろそろ限界なんだけど… 明日遅刻して死ぬほど部長に怒られる未来が見える… 部長の気が済む頃には、ボトルは空になっていた。 「部長、歩けますか?」 「ありゅけりゅ」 「…」 千鳥足だし、呂律も怪しい… この人、本当に帰して大丈夫だろうか? 路上に座り込みそうだし、財布巻き上げられても爆笑してそう… 「部長、家まで送るんで、一緒にタクシー乗りましょう?」 「送らなくていい。子供じゃないんだから帰れりゅ」 子供よりも心配なんだけど… 少し目を離すとフラフラ歩き始める 「部長、どこ行くんですか!?そっちはタクシー留まらないですよー!おーい」 部長と肩を組んで、タクシーが並ぶ場所まで連れてくる。 「はい、部長、乗れますか?段差気をつけてくださいね」 「んりゅ」 「お客さん、大丈夫?吐くのは勘弁してよね」 「すみません…、たぶん、吐きはしないと思います」 冷たい視線を送るタクシーの運転手に頭を下げる。 「部長、家はどの辺ですか?」 「んー…、あっち」 「どっち!?」 「んんー」 「ぶ、部長ぅ」 半泣きになりながら揺すったけど起きない。 俺は泣く泣く、自分の住所を告げ、自宅に連れ帰ることにした。 あーぁ、自分の会社の部長なんか持ち帰りたくねーよぉ。 おっさんよりはマシだけどさ、可愛い女の子が良かったなぁ〜。

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