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第9話

夕方になり、定時の時間が近づくと、そわそわしてしまう。 なんてったって、華金(はなきん)。 そして、合コン。 唯一の俺の心を癒す、至福のひととき… っていうか、入社して早2年… 数々の合コンをこなしてきたが、収穫がゼロなのはどういうことなんだ…? 学生の頃はそれなりに、ゲットできていた気がするけど…、社会人になってからは彼女ができない。 こんなにも、出会いがあるのに… ひょっとして、俺って、モテないのか? いや、でも、今日はできるかもしれない。 なんちゃらも、数打ちゃ当たるっていうし、うん。 仕事帰りだからスーツっていうのがちょっと心残りだけど、スーツって女子受けいいし、とりあえず髪型を整えて、歯磨きもしておこう。 定時まであと10分。 俺は持参している歯磨きセットを持って、会社の洗面所へ向かう。 念入りにシャコシャコ磨く。 ほら、ノリでチューするかもしれないし。 「ま、前沢?」 「あ、部長…」 「おまえ…、会社に泊まる気か?」 「ちがっ、ちょ、すすぐんで待って下さい」 歯磨きしながらの会話はしづらい。 ちょっと飲んじゃったし。 口をすすいで、部長に向き直る。 「部長にも言った通り、今日、合コンなので、歯を磨いてました!」 「お前は本当に自由だな。仕事しないと、とか思わないのか?」 「なに言ってるんですか〜、俺の時間は俺のものです!」 「…、お前のその常軌を逸した考え方は嫌いじゃないが…、これがジェネレーションギャップってやつなのか…?」 部長の眉間のシワが濃くなる。 俺がなぜ歯磨きをしていたかについて、かなり悩んでいるようだった。 「そりゃ、部長みたいなイケメンだったら、歯磨きなんかしなくてもモテると思いますけど、俺、モテないんで」 「??」 「あ、やっぱ何でもないです」 やっぱ、モテ男と非モテ男じゃ価値観も合わないよな、しょうがない。 「あ、定時だ!お先に失礼しまーすっ」 「あ、お、おう」 いつも以上に元気にあいさつをして、俺は会社を飛び出た。 気合は十分だ。 .

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