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第15話

「お、おい、前沢」 「んんん」 俺の心地よい眠りを妨げようとする声に、眉間にシワを寄せながら目を開ける。 そこには、すごく焦った顔をした部長がいた。 あ、やばい… 始発で逃げるの、失敗した… 「おはようございます…」 「あ、あぁ…」 「…」 「その、昨日のことなんだが…」 「そ、それなら、あの、俺は誰にも言いませんので!!」 「…、やっぱり、夢じゃなかったよな…」 ハァァ‥と、ため息をつきながら、部長は床に膝をついた。 知られたくなかったよな… こればかりはちょっと、同情せざるを得ない。 「でも、俺、誰にも言わないし、気にしてませんので!」 「そ、それは助かる。その、色々と巻き込んでしまって、申し訳ない」 「…、本当ですよ。2日連続ですよ!?」 「す、すまない…」 「今度、寿司でも奢ってくださいね」 「…へ?」 「回らない寿司ですよ?」 「そ、それはもちろん。寿司でも焼肉でも、任せてくれ。それはそうと…、ひかないのか?」 そりゃあ、引きましたよ。 まず、暴露の仕方が最悪だし、男の部屋で「男が好き」なんて言われたら、警戒するし… でも、弱ってしまっている部長を見てたら、そんなことよりも、可哀想という感情しか湧かない。 「…、ひかないですよ。これからも、部長は部長ですし」 「…そうか」 まだ不安げではあるものの、泣きそうな顔ではなくなった。 全く、この人が仕事をしている姿は幻影なのかと思ってしまうほどの、ダメな人だ… 「じゃあ、俺、そろそろ帰ります」 「あ、ああ…。駅まで送るか?」 「いえ、駅、すぐそこみたいなので大丈夫です」 「そうか。すまなかったな」 「大丈夫ですって。じゃあまた月曜日からよろしくお願いします」 「ああ」 部長に挨拶をして、昨日と同じスーツで電車に乗る。 とんだ土曜日のスタートだ…

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