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第19話

終業後、俺は鹿野と共に居酒屋に来た。 余興の打ち合わせだ。 社員旅行は1ヶ月後。 場所は京都… 「京都かぁ…、そうだな、野球拳でもやる?」 「誰と誰が?」 「…、俺と前沢?」 「なんで野郎の野球拳なんか見なきゃいけないんだよ!!」 「だって、女性だったらセクハラになるだろ」 「そりゃそうだけどさ、男だけの野球拳見るくらいなら、ない方がマシだわ」  「それもそうだなぁ…。無難にコントでもやる?」 「やだ」 「文句ばっかりだなぁ。前沢も、なんか提案しろよ」 「提案って言われてもさぁ…。手品?」 「キャラじゃねぇだろ」 「……、わっかんねぇ…」 「だよなぁ…、せめて、去年とか一昨年も社員旅行があれば、参考ぐらいにはなったのになぁ」 「そもそも、なんで今年はやろうってなったんだろうなぁ…」 「どう考えても、新社長のせいだろ」 「あー、やだやだ」 2人揃って、また肩を落とす。 その辺のプレゼンよりも嫌な気持ちだ。 やりたくない。 「ばっくれようかな」 「首が飛ぶぞ」 「それはそれで…」 良い、と言いかけて部長の顔が浮かぶ。 かなり面倒見てもらったしな… ここに来て、こんなことで退社するのもバカバカしいな。 「頑張るか、鹿野」 「お、やけに乗り気だな。前澤1人でダンスでもしたら?」 「お前なぁ…、俺らは一心同体だろ?」 「え、なにそれ、きも」 「あー、頭きた。ここ、お前の奢りな」 「ふざけんなよ」 「…」 「なんだよ、急に黙って」 「やっぱ、俺らコントするしかないかもな」 「お、やっと乗り気になったか!?」 「まぁ、こんな感じでやれば、少なくとも滑りはしない気がする」 「そうだろ!?じゃあ、さっそくネタ考えてくるな!」 「お、おう」 鹿野って芸人にでもなりたかったんだろうか? やけに乗り気だ。 コントかぁ… やっぱり、俺らは非モテなんだ… 涙をビールで飲み下した。

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