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第21話
それからバタバタと時間が過ぎて、あっという間に旅行当日になった。
その日まで、何回か部長から飲みに誘われたが、鹿野とのコントの打ち合わせや気疲れもあって、全て断っていた。
本来、上司からの誘いを断るなんてご法度だが…、そもそも、余興を頼んできたのは部長だし……
俺は悪くない、はず……
朝から部長に睨まれている気がしないでもない。
早く今日の夜が過ぎれば良いのに…
夜の宴会が憂鬱すぎて、初日の観光なんて楽しめる気がしない。
ただでさえ、社長が独断で決めた社長のための旅行スケジュールなのに…
やっぱり、断ればよかったかなぁ
余興のせいで、ここ1ヶ月の合コンも全て断って、なにが楽しいのか分からないけど鹿野とばかり会っていた…
鹿野からも「前沢の顔は当分見たくない」と言われている(俺だって鹿野の顔を見ただけで、ちょっと腹が立つ)。
だが、そんな腹立つ顔と毎晩会っていたおかげで、コントの方はかなり良い具合だと思う。
しっかり、台本も覚えたし、細かく調整できた。
不毛だ…
たった一晩のために、俺は全て(の合コン)を捨てて鹿野とランデブーをしていたんだ。
時間を会社に請求したいくらいだ。
「おい、前沢」
「へっ!?」
突然部長に肩を叩かれて、変な声が出た。
「バス、乗らないのか?」
「バス?」
ふと周りを見ると、社員はみんなバスに乗り込んでいた。
外には俺と部長しかいない。
「すいません、ボーッとしてて…」
「大丈夫か?具合でも悪いか?」
「いえ!全然!バスに乗りましょう」
「順番的に私の隣になるが…、大丈夫か?」
「滅相もございません!お隣、失礼します!」
うわーん、ただでさえ憂鬱な旅行の隣の席が部長だなんて…
泣きっ面に蜂…
渋々、部長に次いで乗り込むと、あのくそ鹿野はしっかりと事務の女の子の隣をキープしていた。
姑息なやつ…
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