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第22話
「前沢はバス酔いとかはしないのか?」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
「窓際、変わっても良いが…」
「全然大丈夫です!乗り物には強いので!」
「そ、そうか」
それから会話らしい会話が続かなくなり、ちょっと気まずかったが、すかさずバスガイドさんが話し始めたので助かった。
なかなか美人のガイドさんなので、俺のテンションも急上昇だ。
しかも、声が鈴のように澄んでいて、それでいてちゃんと通る。
荒んだ心に美人バスガイドさんのヒーリング効果ぎ抜群だ。
気づくと俺は、頭を固い何かに置いて、すやすやと寝落ちしていた。
心地よい微睡の中、揺すられて目を覚ます。
「ほぇぇ…、もう少し…」
「前沢、私はトイレに行きたいんだが…」
「!?」
書き慣れた低い声に驚いて目を覚ます。
どうやら、パーキングエリアに入ったらしい。
しかも…、どうやら俺は、あろうことか部長の肩に頭を置いていたらしい…
「あ…、あの、すみませんでした!!」
「あぁ…、まぁ、前沢の頭は結構軽かったから気にするな」
「す、すいません…、以後気をつけます…」
そうですね、どうせ俺の頭はすっからかんですね。
そんなふうに言えるわけもなく、ただでさえ上司であるのに、1つ目のPAまでの2時間も頭を置いていたわけだ…
ただただ低頭して謝るしかない。
「まぁ、俺だからよかったものの…、くれぐれも他の部長陣やそれ以上の人の肩は借りないでくれよ」
「はい。すみません」
「前沢も外の空気でも吸ったらどうだ?」
「あ、じゃあ、一緒におります」
バスを降りて体を伸ばすと、寝ている時は気づかなかったけど、かなり体が固まっていたようで、ポキポキと関節が鳴った。
良い天気のようだ。
まったく、腹が立つ。
俺は眩しいくらいの太陽をひと睨みして、トイレへと向かった。
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