22 / 36

第22話

「前沢はバス酔いとかはしないのか?」 「え、ええ、大丈夫ですよ」 「窓際、変わっても良いが…」 「全然大丈夫です!乗り物には強いので!」 「そ、そうか」 それから会話らしい会話が続かなくなり、ちょっと気まずかったが、すかさずバスガイドさんが話し始めたので助かった。 なかなか美人のガイドさんなので、俺のテンションも急上昇だ。 しかも、声が鈴のように澄んでいて、それでいてちゃんと通る。 荒んだ心に美人バスガイドさんのヒーリング効果ぎ抜群だ。 気づくと俺は、頭を固い何かに置いて、すやすやと寝落ちしていた。 心地よい微睡の中、揺すられて目を覚ます。 「ほぇぇ…、もう少し…」 「前沢、私はトイレに行きたいんだが…」 「!?」 書き慣れた低い声に驚いて目を覚ます。 どうやら、パーキングエリアに入ったらしい。 しかも…、どうやら俺は、あろうことか部長の肩に頭を置いていたらしい… 「あ…、あの、すみませんでした!!」 「あぁ…、まぁ、前沢の頭は結構軽かったから気にするな」 「す、すいません…、以後気をつけます…」 そうですね、どうせ俺の頭はすっからかんですね。 そんなふうに言えるわけもなく、ただでさえ上司であるのに、1つ目のPAまでの2時間も頭を置いていたわけだ… ただただ低頭して謝るしかない。 「まぁ、俺だからよかったものの…、くれぐれも他の部長陣やそれ以上の人の肩は借りないでくれよ」 「はい。すみません」 「前沢も外の空気でも吸ったらどうだ?」 「あ、じゃあ、一緒におります」 バスを降りて体を伸ばすと、寝ている時は気づかなかったけど、かなり体が固まっていたようで、ポキポキと関節が鳴った。 良い天気のようだ。 まったく、腹が立つ。 俺は眩しいくらいの太陽をひと睨みして、トイレへと向かった。

ともだちにシェアしよう!