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第25話

大浴場はうちの社員が結構いて賑わっていた。 それでも、だいぶスペースに余裕がある。 高いんだろうな、この旅館… そういえば、部長の恋愛対象は男だけど、こういう場はなんとも思わないんだろうか? ちらりと部長を伺うが、彼は機嫌良さそうに服を脱ぎ始めていた。 あまり待たせて不機嫌にさせたらまずい… 余計なことは考えずに俺も服を脱ぎ始めた。 それにしても、部長はやっぱりかなり細いように感じる。 普段のスーツ姿だとそこまで気にならなかったけど… 仕事に追われるあまり、飯を食べてないんじゃないか…? 「な、なんだ前沢。男同士とはいえそんなにジロジロ見るな」 「あ、すいません」 なんだか俺の方がそういう目で見ている感じになってしまった。 焦って目をそらす。 「前沢…、なんかスポーツでもやってるのか?」 「え?」 「いや、割と筋肉質だと思って」 「あー…、下手の横好きで、学生の頃サッカーしてたんですけど、その延長でフットサルしてますね」 「ほう…、合コンばっかりしているわけじゃないんだな」 「は、はは…」 モテるために始めたなんて言えねぇ… もちろん、サッカーは好きだったけど、あんまり上手くないし、合コンの方が好きだしな… 「前沢はフットサルか…、俺もなにかスポーツやろうかな…」 「え?」 「なんだ?」 「部長、スポーツやる暇あるんですか?」 「…、お前や鹿野がもうちょっとしっかりしてくれれば問題ないのだが」 「…、ぐうの音も出ません」 「まぁ、今日は旅行だからな、そのことは触れないでおこう」 「は、はぁ」 とりあえず生返事をして、俺は浴場に向かう部長を追った。 やっぱり風呂釜もかなりでかい。 それに、なんとかの湯と書かれた風呂が何種類かある。 「季節の湯なんてあるぞ、前沢」 「分かりましたので、まずは体を流しましょう?」 「はしゃいでないぞ」 「何もいってないじゃないですか…」 部長と並んでシャワーを浴びる。 なんだか、不思議な気持ちだ。 いつもオフィスでは睨みをきかせている上司が俺の隣で体を流している…

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