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第26話

それから、部長の好奇心にのってあげて様々な湯を巡った。 一巡した頃には、俺はかなりのばせそうになっていた。 「よし、一周したな。もう一回いくか」 「え!?」 「不満か?」 「いや、俺かなりのぼせそうです」 「そうか…、じゃあ上がるか」 「いえ、部長はまだ楽しんで頂いて大丈夫ですよ?俺だけ先に部屋戻りますんで」 「いや、前沢が戻るから俺も戻ろう。また宴会の後にでも入ればいいし」 「はぁ…」 そんなにぴったりくっついて監視しなくても大丈夫なのに、信用されてないな… 浴衣を着て廊下に出ると、女子社員が固まっていた。 「わー、部長!浴衣もお似合いですね〜」 「ほんと〜、素敵です〜」 部長の姿を見るなり、きゃいきゃいとはしゃぎ始めた。 はぁ…、いいよな、部長は。 浴衣着ただけで女の子が寄ってくるんだもん… 「それはどうも」 ゆるっと交わして部長が歩き始めるので、俺も皆に会釈して後を追う。 「なんで女性は風呂に入っても化粧したままなんだ?」 だいぶ集団から離れた後で、ボソッと部長が呟いた。 「え?そりゃあ、すっぴんを見せたくないからじゃないですか?」 「せっかくの温泉なのに、疲れないか?」 「ど、どうなんでしょう?」 部長って女心分かってないな〜 分からなくても困らなかったんだろうな 前を歩く部長を改めて見る。 やっぱり細いな。 線が細いからかもしれないが、本当にお世辞じゃなく浴衣が似合っている。 と、部長が立ち止まった。 「どうしたんですか?」 「その、お前さ…、口にガムテープでも貼ったらどうだ?」 「え」 また思っていたことをつらつらと言っていたらしい。 振り向いた部長は真っ赤だった。 「すいません、無意識に出ちゃってました」 「べ、別に構わないが、大衆の前では絶対に言うなよ」 「は、はぁ。気をつけます」 さっきの女の子たちの方がよっぽど恥ずかしくなるくらい褒めてなかったか? 部長って変なところで照れ屋なんだろうか? とりあえず、部屋の前まで来たので、鍵を取り出して開錠する。 部長はずっと真っ赤な顔で無言を貫いていた。

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