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第28話

すごすごと席に戻ると、まだ部長は席を移動しておらず、そこにいた。 女子社員はチラチラと部長のほうを見ている。 隣の席、狙ってるのバレバレだ… 「前沢、お疲れ」 「あ、ありがとうございます。なんか微妙でしたよね」 「そうか?俺は結構笑ったけど…。それに、なによりお前たちが引き受けてくれて助かったよ」 「ははは…」 そう思っているなら、部長のその女性人気を俺に8割くらい分けてほしいんだけど… 「部長、席とか移動しなくて良いんですか?」 「野暮なことを聞くなよ。せっかくの美味い料理を見たくもない顔を見ながら食うのは嫌だからな」 ちらりと奥のほうに固まっている上司陣を見ながら言う。 「見たくもない顔って…」 「さんざん、経営会議で顔を合わせているし、あいつらは営業の苦労ってものを全く分かっちゃいない…」 「はあ…」 部長もいろいろと鬱憤が溜まっているんだな… 俺も部長の顔は出来れば見たくないですけど…、とは流石に言えなかった。 それに、ほかの部署の部長やその上の人と比べれば、プライベートの部長はそれほど口うるさくないから、まだマシだな… って、直属の上司に対して、とんでもないな俺… 「橘部長ぉ~、お酒、お注ぎしますぅ」 「私も~」 「ちょっと、私が先って言ったじゃん」 わいわいと痺れを切らした女性陣が酒瓶を手に、ずいずいと寄ってきた。 俺のほうには冷たい視線をよこす。 はいはい、邪魔者は退散しますよ~ 「部長、俺、あっちで酒ついできますね」 「え?おい!」 部長が助けを求めるような眼をしていたけど、置いていく。 お酒の席では、部長よりも女性のほうが怖いからね。 席を立った俺は、とりあえず、近くにいた別の部署の部長に酒を注ぐ。 「部長、飲んでますか~?」 「誰かと思えば、さっきの漫才師じゃないか」 「や、やめてくださいよ!早くお酒飲んで忘れてください!!」 じょぼじょぼとビールをグラスに注ぐ。 これ、数日はいじられるな… 思ったよりも失ったものは大きいようだ…

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