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第29話

「そろそろ、一次会の方を締めますので、皆さん先にお戻りください」 司会の一言で、散り散りになっていた人たちが元の席に戻る。 案の定、弄りに弄られた俺はいつもの飲み会以上にクタクタだった。 こりゃ、二次会は断ろう。 もう完全にネタキャラだから、ワンチャンとか絶対ないだろうし… あ〜…、俺ってば本当にそんな役回り。 ちらりと鹿野を見ると、しっかり女の子の隣をキープしていやがった。 くそっ。 時間だぞ、早く席戻れ、裏切り者め。 心の中で悪態をつく。 部長も隣の席に戻ってきた。 が、どうやら様子がおかしい。 いつもはしないようなヘラヘラした顔をして、前後に揺れている… まさか…、また良くない飲み方をしたのか、この人は… 同室俺じゃん。また面倒見るのか… クタクタなのに… 恒例の三本締めをして、二次会の場所がアナウンスされる。 どうやら、旅館を出て、近場の居酒屋に行くらしい。 いいよな、のうのうと二次会とか出れちゃうやつは!! 「部長、部屋戻りますか?」 「ふぁ?お〜、前沢ぁ。二次会行くに決まってるだろぉ、ふへへ」 「いや、無理ですよね。それに、俺クタクタなんで、部屋戻りますから」 「前沢行かないのか…」 部長は何やら考えている。 いや、その酔いの回った頭でちゃんと判断できているのか? 「あっ!橘部長ぉ、行きましょうー!次、郷土料理が美味しい居酒屋らしいですよぉ」 女性社員が数人、部長の周りにくる。 げっ…、やめてくれよ。 これで潰れたら俺が世話しなきゃいけないやつでしょ!? 無責任なやつらめ… 「部長、俺と一緒に部屋行きましょう?ね??」 「前沢くんは黙ってて」 「…はい」 女の子って可愛いけど、たまに怖いよね。 否、興味のない男に冷たいよね。 「まえざぁといっしょがいーい」 「「え?」」 やばい…、会社の人の前で部長の本性がバレてしまう… これは部下として何とか阻止せねばならない。 「すみません、部長、アルコールで脳ぶっ壊れたみたいなんで、俺が責任持ってなんとかしますんで!!」 じゃあ!と片手を上げて部長を立ち上がらせる。 呆気にとられる人たちを振り切るように、俺は部長を引きずって自室に引き上げることにした。

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