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第1章
残念なお話をしますが、と重々しい雰囲気を醸しながら口を開いた担当医を前にして、僕はぼんやりと『あ、きたな』と察した。
隣には身体を強張らせて座る母親。
お母さんを悲しませてしまう時が来たことにチクリと胸が刺痛んだけど、それ以外は特に気にならなかった。
「正直に申し上げて、椛くんの余命はあと1年ほどかと…」
ああ、やっぱり。
帰りの車の中は妙に暑かった。
3月上旬、今年も家の庭に真っ赤なポピーの花が咲く季節。この時期にしては随分と暖かい日なのに暖房をかけすぎだ。お母さんの今の心境を考えればそんな事言えないけども。
(というかこの沈黙どうしよう…。あの話の後にどんな事話せばいいのやら)
ちらりとお母さんの顔を盗み見るけど、真正面を向いて微動だにしないその様子からは何を考えているのかイマイチ分からなかった。
ここはやっぱり僕が…と話題を探し始めた時、ふいにお母さんが口を開いた。
「椛、高校に通うの?」
「え?あ、うん、そのつもりだけど。せっかく受かったんだし」
「そう…そうね。貴方がそうしたいのなら私もお父さんも協力するわ。でもこれだけは約束して。無理は絶対にしないこと」
その口調は随分と力強い。
否は言わせないその雰囲気に僕はこくりと頷いた。
病を押してまで通学しようと決めたのは普通の生活を送りたいから、というのもあるのだけど、ある可能性を期待しているからでもあった。
(何を探してるのか…そもそも探し物なのかどうかさえ分からないのにねぇ)
物心ついた時から胸に巣食う使命感のような、モヤモヤしたような、そんな妙な感覚。通学せずに家や病院に篭って人との関わりが狭まってしまえば、その分「妙な感覚」をスッキリさせる可能も狭まると思う訳で。
死ぬ前に何か分かればいいな、と密かに気合いを入れた僕は車の窓を少し開けた。
頬を撫でる風が随分と優しくて気持ちよかった。
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