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第3話

 番はアルファとオメガの間にのみ発生する関係だ。アルファがオメガの項を噛むことで契約が成立する。締結により、それ以外の個体を生理的に受け付けなくなるという。  双方が想いあっていれば問題はないが、同意なしに契約を結んでしまうと、悲劇が起こることがある。    凌太郎が項を噛んだオメガには、恋人がいた。番契約はオメガからは解除することはできない。恋人を排除しようとする己に絶望し、自刃したという。  その後、その恋人が屋敷に真剣を持って、凌太郎を排しようとした。屋敷の警備員に取り押さえられ、敢え無く御用となり、獄中死したというところまで、清二郎は把握している。何故そんなことを知っているのかというと、おしゃべり好きの女中が話しているのを聞いたからだ。二人の両親は金の力でもみ消し、この件についても、優良種の誉れだと凌太郎へ言って聞かせていた。両親からなんと言われようと、自身の欲望が二人の人間を死に追いやったことを、凌太郎も理解していたのだろう。  そこから凌太郎の狂った一面が現れるようになった。両親の前ではこれまで同様、優秀な跡取りとして接していたが、その裏で、ついの子部屋へ通ってはオメガを買い、自身の私邸へ住まわせるようになった。そして、そのオメガの世話を清二郎に命じるようになった。まるでお前も同罪だと言っているようだった。清二郎は、兄が連れてきたオメガを何人も見てきたが、これまでに招かれたオメガは、すべて男のオメガであった。  凌太郎は、オメガを篭絡するのが上手かった。幼少期に、オメガとの関係で心に傷を負ったことを自ら曝け出し、庇護欲をそそる。見目麗しく学があり、将来は商家の跡を継ぐ、そんな強い男が自分にだけ見せる影……多くのオメガが惚れ込んでしまった。  世話係として面倒を見ていた清二郎に対し、あの人の傷は自分が癒すと豪語したオメガがいたため、清二郎は兄の手口を知ることとなった。そのオメガは凌太郎と番契約を結んだが、血も涙もなく路頭に放り出され、深く傷ついてしまった。  契約を解除した場合、アルファである凌太郎には影響はないが、オメガ側には大きな負担がのしかかる。喪失感、絶望感、負の感情に支配され、生ける屍と化してしまうか、自ら命を絶ってしまうのだ。  清二郎は、兄には知られないよう、捨てられたオメガを匿ってきた。オメガを哀れんでというのもあったが、兄の醜聞が広まらないようにするためという意味の方が強かった。オメガが何も語らず、死んでくれるとは限らない。凌太郎は優秀であるが故に恨みを買うことも多く、このことが商売敵に知られてしまえば、家業が立ち行かなくなる可能性があった。  昔であればアルファがオメガをどのように扱おうが、咎められることはなかった。オメガだけに限らず、ベータ性の遊女や男娼も、その程度の扱いだった。しかし、最近では、人身売買などが問題視されるようになってきた。遊郭などは、今後縮小せざるを得なくなっている。  そういった例もあり、オメガ個人の権利というものも、表向き尊重されるようになってきた。そんな風潮の中で旧態依然とした兄の行いが、お上に対する反逆と取られてしまえば、家業の行先は怪しくなってしまう。  清二郎は、私邸に連れ帰ったオメガを宥めながらため息をついた。

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