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第6話

「珍しいですね。清二郎さまが、そんなに取り乱すなんて。よろしければ、わたくしに話していただけないでしょうか」    話してしまいたい。いや、話してはいけない。清二郎は逡巡した。  兄は薫に対しては、まだ高圧的な態度を取っていない。もしかしたら、良好な関係が続く可能性もある。しかし、薫で何人目のオメガだったか。薫だけ特別ということも考えにくかった。だが、話してしまえば、薫はここからいなくなるだろう。凌太郎がこれまでに行った事実を知ってなお、ここに留まる理由はない。薫程の芸者であれば、働き口には困らないはずだ。感情だけが、清二郎を鈍らせていた。  薫と共にいたい。  屋敷にいる限り、廃人になる未来は避けられない。薫が薫でなくなってしまうのは、嫌だ。たとえ、薫が兄の汚点を口外したとしても。  思わず、手が震える。清二郎の動揺を察したのか、薫は震える手を嫋やかな手でしっかりと握った。 「凌太郎様には内緒ですよ」  いたずらっぽく笑う薫を、清二郎には見つめることしかできなかった。 「こんなことを知られてしまえば、わたくしはここをお暇しなくてはなりません。ですが、そのような状態の清二郎様を放っておくこと、わたくしにはできません」  清二郎は、これまでの凌太郎の所業を語り始めた。  幼少期からの出来事、屋敷に住まわせたオメガは例外なく、廃人となったこと。薫にはこれまでのオメガと同じ末路を辿ってほしくないこと。 「そんなことがあったのですね。よく話してくださいました。お辛かったでしょう」 「薫さん、私は貴方にそんな風に思ってもらえるような存在ではありません。結局のところ、私は兄には逆らえません。これからもずっと、私は兄に従い生きるしかありません。私は、貴方を、見殺しにすることしかできない」  清二郎の目からは涙が流れていた。見殺しにするという己の発言に、自らが傷ついた。なんて自分勝手な人間なのだろうと浅ましくなった。自分は、兄の言うことを聞いている限り、生命の危機はない。しかし、薫の命はいつ潰えるかも分からないのだ。 「結末が変わることがないのなら、貴方に怖い想いをさせることはなかったのに。私はただ、自分が楽になりたいから、貴方に話してしまっただけに過ぎないのです。申し訳ありません」    薫は、泣き顔を見せた清二郎に対し、嫌な顔一つせず、話を聞いていた。少しの間考えこんでから口を開いた。 「凌太郎様は、これまでのオメガにどのようなことを命じてきたのでしょうか」  突然の質問の意図がわからなかったが、何か意味があるのだろうと思い、兄とこれまでのオメガの閨での出来事を清二郎は思い起こした。

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