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第7話

「兄は、貴方に首絞めを要求してきませんでしたか」 「ええ、昨晩も……跡が残ってしまいますとお伝えしたのですが、それでもかまわない。その方がいいとおっしゃられて」  やはりそうか。清二郎は確信した。 「私は、兄以外のアルファを詳しく知らないのですが、アルファはオメガに対しては加虐性を見せることが多いと思うのです」 「アルファはオメガを支配する者。そう思っている方は多いですね」 「しかし兄の場合は、オメガに対して被虐性も持ち合わせているようで……。多分、アルファ性に目覚めた経験がそうさせていると思います」  以前他のオメガにも首絞めを要求していた。凌太郎は、時折首筋に手の跡をつけて出てきた。襟巻をつけてごまかしたり、虫に刺されてみっともないからと言って、包帯などを巻いてごまかしたこともあった。 「では、次にわたくしが周期に入った時には、もうわたくしの運命は決まってしまうかもしれませんね」  嫌だ。清二郎はそう思ったが、口には出せなかった。どれだけ嫌だと思ったところで、兄に逆らうことなど出来るはずがないと痛いほどわかっていたからだ。  せめて出来ることは、薫を見つめることだけだった。言葉にしなくとも、薫にはすべてお見通しだったのだろうか。くすりと笑ってから、薫は清二郎の頬へ唇を寄せた。 それから数か月、薫は周期に入り、凌太郎は私邸へとやってきた。私邸へやって来た日、既に薫の香りに中てられたのか、目は血走り、息を荒げていた。 寝室に入ってすぐ、二人の交わりは始まった。清二郎にとっては、一番苦しい閨の番であった。声が漏れ聞こえてくるが、耳をふさいでしまいたかった。 「薫、また俺の首を絞めてくれ。お前の美しい顔を見ながら、果てたいのだ」 「凌太郎さま、苦しければ苦しい程、気持ちが良いのですね。お顔もそうですが、こちらも嬉しそうに震えていらっしゃいますね。さあ、わたくしはどちらを可愛がってあげたらよろしいのでしょうか」 「先に下を縛ってくれ。でないとお前の中で果てる前に、やってしまう」  薫からの首絞めを受けながら行為を楽しんだ後、薫の項を噛むつもりなのだろう。なんて悪趣味な男なんだと己の兄ながら、嫌悪した。あの黒子一つない、誰も犯したことのない首に、兄の牙が食い込むかと思うと、正気ではいられなかった。  どのくらい時がたっただろうか、静まり返った屋敷から人の声がした。

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