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第13話

凌太郎の死は伏せるしかない。 彼の両親は周囲に対して、病を得たため執務を行う事が難しくなったと説明した。言えるはずがなかった。オメガとの痴情の縺れの末に絞殺されたなど。 期待していた跡取りの呆気ない死。絞殺したオメガは行方不明。希望の糸は、亡き跡取りの忘れ形見を宿すオメガがいるという次男の言だけだった。 オメガは凌太郎の死後、憔悴しきっているため、以前から世話をしてきた清二郎が出産まで面倒を見るという。 下手に刺激して、子が流れでもしたら一大事である。今は耐えるしかない。 生まれてさえくれれば、後はどうとでもなる。今はオメガの胎を借りていればいい。 両親が気をよくしたのを見て、清二郎は一人ほくそ笑んだ。 本来なら、両親は凌太郎を殺めたオメガを八つ裂きにでもしてやりたいと思っているだろうが、その衝動も世間体の前では鳴りを潜めるしかなかった。 「生まれるまで後三月といったところです。生まれた子はすぐにこちらに連れ帰ります。オメガは抵抗するかもしれませんが、もともと不安定な気質でしたから、長くは持たないでしょう」 その事実を告げて、清二郎は両親の元を去った。 そしてその足で、亡き兄の私邸へ向かう。 「お帰りなさいませ」 「薫さん、出迎えはいいと言っていたでしょう」 「もう流れやすい時期は過ぎたとお医者様も仰いました。それに、寝ているばかりではいけないそうですよ」 薫は重たげな腹を手で支え、清二郎を出迎えた。その体躯は、子を宿して7ヶ月が経過したと言ったところか。以前に比べてふっくらとした印象を持つが、その美貌が損なわれることはなかった。二人は玄関から部屋へ移動し、清二郎は薫が楽な体制になるよう促した。 「大分大きくなりましたね」 「ええ、もうこの子と共にいられる時もあとわずか・・・・・・」  ほんの少し憂いを帯びた表情で薫は、腹部を撫でる。 「薫さんには申し訳ないことをお願いしました。でも、これも家のため・・・・・・両親も、子を差し出せば、貴方を追い出すことはしないと約束してくれました」 「わたくしは、構いません。この御家にお世話になっていることは事実ですし。ですが、わたくしは清二郎様の方がお辛いのではないかと思っているのです」 「何故でしょう。私は、これ以上兄の不始末を片付ける必要もなくなり、穏やかな生活を送っていますよ」 「わたくしは、この子とは産んでしまえばそれきりです。もちろん、寂しくはありますが、貴方様は、幾度となくこの子と顔を合わせることでしょう。叔父、甥として接することになります」  二人の間に沈黙が流れる。

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