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2:side I
「なんか、後輩のカノジョ、ちょっと様子おかしくなかったか?」
帰宅して、ネクタイを緩めていた彼に尋ねた。ソファに身を預けて、立ったままの彼に振り返りながら言うと、彼は軽く首をかしげただけだった。
「そうか? あまり気にならなかったが」
「んー、なんか変にギクシャクしてるっていうか、なんか静かっていうか」
「彼は普段からシャイなんだろう?」
と言われてから気づいたけど、コイツとカノジョはもともと接点らしい接点なかったから、わからなくて当たり前か。とはいえ俺もたまに偶然バーで会うくらいで、言うほど接点はないんだけど。
「そうだとしても、きっと疲れていたんじゃないか」
適当なタンクトップにカーディガンを羽織った彼が、俺の隣に腰掛けてくる。
「彼らの人柄についてはハニーからよく話は聞いていたが、改めてとても似合いのカップルだと思った。とても可愛らしい」
CMを作ることになって、とりあえず後輩経由でカノジョにアポを取って、いつものバーで改めて4人で会って。
カノジョは俺の夫にも彼からの話にもびっくりしていて、家族とお世話になってる出版社と相談するということで話がまとまった。
カノジョ自身、俺の夫が有名人だってことは後輩から話を聞いていたそうだけど、本気で信じていたわけじゃなかったそうだ。貸切にしたバーで初めて会った時、カノジョは本気で驚いていた。
「え、え? マジだったの?」
って、顔を真っ赤にしながら後輩と夫の顔を交互に見ていたのが忘れられない。正直可愛いなと思ったほどだった。
もちろん冗談だと思っていたカノジョは背筋を正して話を聞いてくれた。
結果的に出版社がマネージャー代わりの仲立ちとなって今回の話を進めていくことになり、円満にプロジェクトが進行したという感じ。
「彼のマネージャーも、不慣れだという割にはとてもうまく調整してくれて、話もスムーズだったしな」
そりゃあただの編集者だし、しかも書道を中心に扱うホントに小さい出版社だったみたいで、こういう芸能みたいな仕事は完全に畑違いだったわけで。マネジメントは大変だったみたい。
ましていきなり世界企業のCMのマネジメントなんて。結構綱渡りな仕事だったんじゃ、と今になって思うけど。
「CMもうまく出来ていたし、俺としてはとても満足のいく仕事ができた。彼らもそうだと嬉しいんだが」
今日はCM発表の会見だけ。実際の放送は来月からだという。まだ少し先の話だ。
「……お前がそう言うなら、よっぽどよかったんだろうな」
俺の気のせいだったかもしれない。たしかにプロジェクト自体はかなり順調で、話も撮影も進んだし。
「あの筆使いもすごかったし。テレビでしか見たことなかったよ」
でっかい筆を持ったカノジョが、槍を振るうみたいに大きな半紙に文字を書いていく…みたいなCMなんだけど、CMでやったやつは書道の中でもパフォーマンスの部類で、普段カノジョがやってる書道とは違うものだったそうだ。撮影中疲れた様子を見るたびになんか申し訳ない気持ちになったりした。
けどまぁ、見せてもらったCM自体はすごくいい出来だったし。
腑に落ちたような腑に落ちないような感じだけど、まぁいい。
「ああ、満足だ」
肩に手を回してきた彼に、自然と寄り添う。自然と甘ったるい雰囲気になってしまうのは、もう息をするのと同じくらい当たり前のことだった。
少し見上げるくらいの角度で彼の顔を見ると、視線を合わせてきた彼と目が合った。
「ハニー、リラックスしよう」
静かで穏やかな声で、彼が顔を寄せてくる。その声だけでも充分リラックスできそうなのに、優しい手で体に触れられると、触れられたところが熱を持ちそうなほど熱く感じる。
「でもさ、あいつらも学生なのに頑張ってくれたよな。カノジョはもちろんだけど、後輩も普段全然気遣いとかできないのに、アレコレ気を回してカノジョのフォローして」
首筋に唇を這わされながら、だんだん眠いようなまったりしたような気分になってくる。
寝物語みたいに他愛のない話をふるけど、彼は俺の体に触れながらきちんと答えてくれる。
「彼らはもともととても気遣いができる人間さ。経営者の感がそう言っている。若いうちに素晴らしいパートナーに出会えたことは、とても良いことだ」
あっという間に上半身を脱がされる。革張りのソファーに背中をくっつけると、全身に鳥肌が立った。
「彼らはきっと結婚するだろう。なんだかそんな気がした」
その言葉だけはなんだかやたらハッキリ言う。
「それはわかんないけどさ」
「いいや、結婚すると思う。俺の勘がそう言っている」
そして譲らない。
「ん、そうですか」
わかんねーけど、思うのは自由だし。適当にあしらうと、いよいよ矛先が俺の体に向いてくる。
全裸にされると、ちょっとふわふわしてた気持ちがだんだん興奮を帯びてきて、脱がされ開かされた脚の間に体をねじ込まれると余計に艶っぽい気持ちになった。
「なんかまた胴まわり太くなったよな」
彼と共通の趣味みたいなものはジム通いなんだけど、富裕層専門ジムの最上位の会員で、専属トレーナーまでついてる彼の鍛え方というのは、アスリートの鍛え方と完全に同等だった。だからって何かスポーツするわけじゃなくて、本当にただジムで運動するのが趣味みたいな感じ。
「筋肉だろう、下半身強化の賜物だ」
下半身と言ってもそっちの下半身じゃないからな、とすごい下手な親父ギャグまで飛ばす始末で。
「日本でそういうギャグは嫌われるから気をつけろよ」
と呆れ顔で抱きつく。彼の心臓が動く速度を感じる。俺とは違うペースなのに、すっと気持ちが落ち着く。
「まぁ、下半身の強化に関しては、お前の体に鍛えてもらっているからな」
背中から腰まで、すっと撫でられる。
「特にココに」
指先が、まだほぐれてない穴に触れる。軽くトントンとつつかれた。
「まぁ、きちんと面倒見てやってるつもりだからな」
なんて偉そうなことを言っちゃう。俺だって世話してもらってるようなもんなのに。
もちろん、世話とかそういうレベルじゃなくて、コミュニケーションであり愛情表現の一環でやってることなんだけど。
そうじゃなかったら夫婦なんかやってないし。
「ああ、俺の息子が世話になっている」
言いながら俺の手を取って、部屋着の短パン越しに下半身を撫でさせてくる。
「息子だけじゃなくってお前のことも面倒見てやってんじゃん」
「もちろん。世話になっている。お前じゃないと体が反応しなくなっちまったからな」
「はいはい、そーかよ」
本当恥ずかしげもなく言う。でも、そう言ってくれるのは正直嬉しい。俺だってすっかり彼じゃないと心も体も満足しなくなってしまった。
「ハニーもそうだろう?」
たまに聞かれるけど、恥ずかしいから正直には言わない。
「さて、どうかね~」
適当に濁すのはいつものことで、彼がほっぺたを膨らますのもいつものこと。
「ハニーははぐらかすのが得意だな」
本当に不満でしょうがないみたいな顔をしてるのが、ちょっと可愛いと思ってしまう。
「まぁ、いちいち聞かなくてもじゃん」
そんなことよりも、することはちゃんとしたい。
「リラックスするんだろ?」
彼の手を俺のに触れさせる。興奮で少し反応し始めてた。
「親友もリラックスしてきているな」
俺だけ素っ裸で剥き出しのまま。我ながら、なんか彼だけの捧げ物みたいな気がしてきて、それはそれで興奮してくる。
「俺はお前だけのもんだから、いっぱい触って」
彼の方に腕を回して、そのまま抱きついてキスをねだる。唇を尖らせると、自然に貪られるような深いキスに変わった。
「ん、っ」
ときどき唇を軽く重ねるだけのキスで、時々貪るようなキスで。その隙間で俺の下半身はしっかり丁寧に擦り上げてくる。
昔宝石商やってたせいなのかわかんないけど、体の大きさの割に手の動きが繊細で、本当に壊れ物か何かみたいに俺の下半身に触れてくる。
先端の穴から括れ、裏筋の根元まで、指の腹で優しくしっかりと触れてくれる。
「少し赤くなってきたな」
唇を離した彼の視線が、俺の下半身に注がれる。
「お前は肌が白いからすぐわかる」
「お前より白くねぇって」
人種がどうとか全然気にしたことないけど、それにしたって彼に肌の色のことで白いとか言われたらツッコまずにはいられない。
「まぁ俺の方が白いが。ハニーは日本人の中でも色が白い方だろう」
「えー? あんまり考えたことねぇな」
でも日本ってさ、男が肌白いってあんまり褒め言葉じゃないよな。最近の若い子って美容にうるさいらしいけど。俺もおっさんだし雑なだけ? まぁいいや、覚えてたら今度後輩に聞いてみるか。
俺の先っぽは、充血したのと触られまくったのとで、たしかにほんのり赤くなってしまっていた。
「可愛らしい、照れてるのか?」
こいつの想像力にはたまに頭が下がる。
「ほら、震えているぞ」
感じてたまにピクッと動くのをそう表現するし。
「あんまりいじめんなよ、かわいそうだろ」
俺も俺でつい乗っちゃう。
「いじめてなんかいないさ、きっと俺が触って気持ちが良すぎたんだろう」
「うー、それは否定できねぇなー、悔しい」
「ははっ、今日は突っぱねないんだな」
「たまには素直になりますよ」
つられて笑いながらほっぺたに軽くキスを一つ。
彼は俺の下半身から手を離すと、ゆっくり体をソファーから起こした。
「お前は本当に美しい」
言いながら、自分の腰にたまがるように指示する。馬にまたがるみたいに彼にまたがると、ちょうど穴の真下に彼の下肢が当たった。
「その目、顔、香り、髪の色、肌、全てが俺のために生まれてきてくれたようなものだ」
そんな格好でそんなこと言われたら、勝手に鼓動が速くなっちゃう。
「これは余計だったけどな」
言いながら、自分の腕の模様に目をやる。彼は軽く笑って、いいや、と言った。
「これがあるから出会えて、これがあるから再会できたんじゃないか。俺とお前の縁を繋いでくれた大切なものさ」
まぁ、これがなかったらそもそもあの日お持ち帰りされなかっただろうからな。いろいろあって入れた模様だけど、結果的に縁起物だったってことかな。
「卑下する必要はない。俺には全てひっくるめて愛するお前なんだから」
腰とお尻のあたりをまとめて手で支えられ、そのまま首筋から胸元に唇を這わされた。
「あっ、ん」
勝手に声と息が漏れる。構わず、両胸に思いっきり吸い付いたり摘んだりしてくる。吸っても何も出ないのに。
「んんっ」
唾液の音。肌と肌が触れ合う音。すっかり住み慣れた家の中、小さな音が俺たちの間を起点に響いているような気がしてちょっと恥ずかしい。
「や……」
興奮してくる。あられもなく喘いでしまう。彼にだけ聞かせる声を、彼にだけ聞こえるように耳に直に囁く。
「ハニー、上手に鳴けたらご褒美をやろう」
「は……っ?」
何、今日はそういう趣向なの?
「鳴けたらって何? わかんないんだけど」
「なぁに、普段通りにしていれば問題ない」
「問題ねぇ」
「あとは、素直に受け止めることだな」
「はぁ」
全然わかんないけど、とりあえず普段通りでいいっていうならそれでいい。
「さぁ、愛し合おう」
仕切り直しみたいに言う。ぎゅっと音がしそうなくらい強く抱きしめられた。
「先にシャワーを浴びよう」
言葉とともに、つられて立ち上がった俺を、彼が軽々とお姫様抱っこして抱き上げられる。
「ちょっと待っ!」
待ってって声もうまく出せないまましがみつく。
「おっと、待っては禁止だハニー。上手に鳴く、そして拒まない、それが今日の条件だ」
今日もなにも、今までそんな条件課されたことない。
「拒まないはさっき条件に入ってなかっただろ」
「おっと、これで2回目だハニー、イエローカード」
いつもに増しておどけて言うのがなんか癪に触る。
「はいはい、わかりました。口答えはしません」
まぁいいけど。適当に言って身を任せた。
この家の浴室は、浴槽とシャワールームがそれぞれ独立して設置してある。浴槽が一番奥にあって、その手前に洗い場、そのさらに手前にでかいアクリル板で仕切られたシャワールームがある。
そして一番手前に脱衣所兼洗面所。そこまでが水回りとして一つの空間になっている。もちろんトイレは別だけど。
シャワーは雨みたいに天井から降ってくるタイプで、俺的にはかなりお気に入り。水滴の大きさすら選べるし、なんならミストサウナにもなる。
浴槽に浸かるのは冬場くらいだから、シャワーの文化で育ってきた彼とは相性もよく楽しめる設備なわけだ。
(ここですんのかな)
新婚旅行で露天風呂でヤッた以来、風呂場での行為も解禁になった。ただ、石橋を叩いて渡る性格の彼が、よしと認めた場所でだけだけど。
シャワールームの手前で俺を下ろす。中は俺と彼が入ってもまぁまぁ余裕がある広さで、素っ裸の俺はさっさと扉を開けて入ってしまうのだった。
シャワーを捻る。真上から降ってくる水玉は、少し大きめに設定した。
ぼた雪みたいなこういう大粒の水滴は、なんか名前がついてるんだろうか。外じゃぬるい雨なんか降らないけれど、カプセルみたいな狭いこの世界には、あったかい幸せな雨が降る。
「待たせたなハニー」
ニヒルな笑みの彼が入ってくる。中はもうもう湯気が立ち込めて、シャワーのぬるい温度と滴る大きな音で満たされていた。
「待ってたよ」
照明は落ち着いたオレンジ色。ニンマリ微笑み返す。
すりガラスの壁はなんとなく浴槽や洗面台も見えて、別に誰も見ていないのに、裸でいるだけでなんとなくいけないことをしてるような気分になる。このシャワールームが好きな理由の1つでもある。
「濡れた体も美しい」
ホントに何でもかんでも褒めるんだからな。けど、今日は逆らわないっていう縛りがあるみたいだから、ありがたくその言葉を受け止めよう。
「そりゃどうも、ありがとよ」
「出会った時のハニーも同じことを言っていたな」
「そうだったっけ?」
「あぁ、確かそうだった。お前の口癖なんだろうな。当時から変わっていない」
よく覚えてないや。でもそりゃどうもってよく言っちゃうかもしれない。
「お前も鍛えてるからあいかわらずすげぇ体だな」
軽くハグしてきた体にそっと腕を回す。軽いキスのあと、シャワーの刺激とあたたかさに身を委ねた。
呼吸するのもしんどい。大粒の水滴に打たれて、彼の肌を感じて、心拍数があがっていく。
「ハニー、はしたないな」
彼が喉の奥で笑う。視線の先に俺の下半身。もう反応しちゃうのしょうがなくない? しかもこのシチュエーションで。
「はしたなくさせてんじゃん」
もともとそんな礼儀正しくねぇし。彼のニヤニヤは止まらない。
「ハニー残念だ、今のでレッドカード」
「はっ?」
「お仕置きが必要だな」
何にも逆らってないんですけど?
「お仕置きされるほどなんかしたっけ?」
っていうかお仕置きって何。
キョトンとしちゃうと、軽いキスとともに下半身をそっとつかまれ、低い声で囁かれる。
「すぐにわかるさ」
自分のと俺のを重ね、天井を向かすように握り直しながら、ゆっくりと擦る。大粒の水滴が、俺と彼の先端や皮膚が重なり合った部分に打ち付けるみたいに落ちてきた。
「優しくしてな」
少し背伸びして、彼の首に腕を回しながら囁く。彼の喉仏が上下した。
「お前はそうやって俺のことを誘う。本当に小悪魔だ」
相変わらず低音だけど、少しだけ余裕がなくなってる感じ。早くもその調子って、俺にお仕置きとやらできんのかね?
「それなら小悪魔に徹しようか?」
言った通り優しく丁寧に手を上下させる。2本分握っても余裕の大きい手。スムーズに撫でていくのに身をまかせる。
ちょっと笑いながら、彼の首筋や喉仏に音を立てながら何度も唇を重ねていく。
「小悪魔をきちんと躾けてみせてよ」
上目遣いに彼の目を見つめる。彼の眉間に皺が寄ってる。興奮してる証拠だった。
「ああ、お仕置きしてきっちり躾けてやろう」
目力が強い。もともと日本人と違って顔が濃いから余計に強く見えるし、ガタイがいいからお仕置きとか躾けとか言われると本気で痛いことされそうにすら感じる迫力がある。けれど絶対に彼はそんなことはしない。
「痛いお仕置きじゃなきゃいい。痛い躾じゃなかったら」
「もちろんさ、俺がお前に痛い思いをさせたことがあるか?」
「ううん、ない」
子供みたいな返答をしながら、視線を下に落とす。彼の手に囚われたムスコを眺めながら、軽く腰を揺らしてみる。
「これ、なんとかして?」
腰を動かすと、先端の括れた部分が彼の括れと擦れあって気持ちがいい。
「ムスコはムスコ同士で洗いあってもらうか」
壁付けのボディーソープホルダーに手を伸ばした彼が、手に取った液体ソープを砂でも零すみたいに2本のムスコの上に垂らしていく。
一瞬冷たくて軽く体が跳ねた。
「ハニーも手を添えて」
俺の手を取り、ボディーソープまみれの2本に添えさせる。彼と一緒に静かに擦っていく。
「っ、あ」
真上から当たるシャワーにすぐに泡が溶かされてしまうけど、ともに擦る手は止まらない。
ムスコ同士洗いあおうなんていうだけあって、泡のぬめりの力を借りて全体を刺激するみたいに擦っていく。
「なんか、へん」
お互いのをこうして重ね合わせてぬるぬるにしたことはない。ローションとかそういうのは使い慣れたものだけど、あくまで後ろの方をほぐすのに使っていただけだったから。
「気持ちがいいだろう? 嫌か? こいつは嫌そうじゃないがな」
お仕置きだ躾だなんて言っておきながら、俺を甘やかすみたいに囁いてくる。
「嫌ではないよ、変な感じがするだけ」
「変な感じとは?」
「ぬるぬるで、擦れてて、気持ちいい」
先走って出てるのもいくらかあるかもしれない。けど、それを感じられない全体が滑っていた。
「あぁ、気持ちがいいようだな。こっちの方も随分張っている」
言いながら、彼が触れてきたのはムスコの奥にある2つの袋。興奮してくるとパンパンに張ってしまう。
触られたところであまり気持ちいいわけではないけど、指で転がすみたいにして触られると弄ばれてる感じがしてM心を刺激される。
「そんなっ、触んなって」
「そういう強がりだろう? 可愛らしいなお前は」
攻める手は緩めない。彼は勝手知ったる俺の体を、的確に捉えてしっかり刺激してくる。
優しくこすられるのも好きだけど、時々軽く引っ掻くみたいにされると体が跳ね上がってしょうがない。
「ここが弱いな」
あえてそういうことを言いながら触られるもんだから、余計に気持ちがあおられる。
「お前がっ、いっつも触るから……っ」
つい腰を引いてしまうのを、空いている手で抱きとめられる。
触感もあるけど、彼とこういう関係になってから、気持ちで体が反応してしまうことが多くなった。気持ちだけじゃなくて、匂いとか音とかちょっとした温度とか、そういうのにも感じてしまうようになっていた。
彼が俺の一部である証拠なのかもしれない。シンクロしてるみたいな、体の奥から求めるみたいな不思議な感覚。実の親にでさえも抱いたことのない感触だと思う。
「ああ、俺のものだからな」
自信たっぷりに言いながら、再びまとめて二本握り直して、こすり洗いするみたいに乱暴に、けれど的確にしごいていく。
「お前の心地いい部分は全て分かっている。親友のことだって分かっている」
親友っていうのはもちろん今洗われているコイツのことで。
「もちろん、お前の中のことだってな」
耳の穴の奥まで舐めながら言われるから、2人っきりの空間でもかなり恥ずかしいし背筋がゾクゾクする。
「っ、いちいち言わなくていいって」
「言っただろう、お仕置きだって。躾も兼ねていると」
お仕置きでも躾でもなく、ただの羞恥プレイじゃん。
言おうと思ったけど、これも口ごたえとか思われたら面倒だから何も言わない。
彼は一向にニコイチで擦るのをやめなかった。嫌がった俺が彼の肩を押すけど、全然ビクともしない。
「やだっ、なぁ、やめ」
出した声が、赦しを乞うみたいな引きつった音になってしまった。
「可愛らしい声だが、今日はお仕置きだからな、お前のお願いは聞けない」
そういう彼はとても楽しそう。昔の恋人にSMみたいなことしてたとか話してたことあったから、もともとそういう素質はあるんだろう。
「お仕置きって、何すんの」
強がった声で尋ねると、彼は本当にだらしなく鼻の下を伸ばして、そうだなぁと囁く。
「可愛らしすぎるのを、もっと可愛らしくしてやる」
「はぁ? それがお仕置き?」
「まぁ、お仕置き兼躾だ」
小悪魔の躾、といい直してニヤニヤしてる。言い回しが気に入ったらしい。
「お前の躾、上手くいくかねぇ?」
そうなったら、こっちも受けて立つしかない。
とは思ったけど、下半身が囚われの身だからあまり面倒も言えない。
「言ったな? きちんと躾けてやるぜ」
案の定、矛先が下半身に向いた。
「まぁ、悪いようにはしないから安心しな」
低い声で笑われると、ガタイもいいから本当に悪役みたい。
「少しくらいならつらくてもいいよ」
乱暴なことはしない彼に、少し乱暴されたくなってしまった。
自分のを解放して、俺のを包み込むみたいにしっかり握り直す。俺の好きなペースをちゃんと把握してる。裏の上から下まで丁寧に優しく擦り上げられて、体が軽く震えた。今となっては、完全に自分で処理するよりも彼が俺のに触れてる時間の方が長い。
「あ……っ」
縋り付くようにしていた彼の肩に爪を立てる。
「よしよし、痛くはしないから安心しろ」
飼ってる犬とか猫とかに話しかけるみたいに、まったりした口調で言う。指先は、そのまま俺の奥をたどっていく。
「ぁ、っ」
声が引きつった。腰が引けそうになるけど、彼の腕が許さない。
「ここをいじられながら擦られるのがすっかり好きになったな」
満足そうに言うもんだから、なんかちょっと悔しい。
「だれのっ、せい」
本当にこいつと出会わなかったら、こんなところ触ろうとも触らせようとも思ったことはない。
「誰のせいだろうな? ハニーの素質なんじゃないか?」
わざとらしく言うのが癪に触るけど、対照的に徐々に腰が揺れてきてしまった。
「ほら、こっちはとても素直だ。腰の動きは我慢できないらしいな」
笑った彼の喉仏が、綺麗に上下しているのを目の前で見ながら、腰は揺れ続けた。
「だってぇ……っ」
すっかり慣らされちゃってるから、彼の一言、彼の一挙手一投足すべてに翻弄される。
「だが、今日はお仕置きだからな」
彼は突如、俺から手を離してしまった。
「はっ?」
パッと声が出たのも奇跡的なほど、一瞬にして頭の中が真っ白くなる。
過敏にされた状態の体は、まだ彼が手を離したのを理解してないみたいに、じんわり震えて、ほんのり熱い。
「そう簡単にはイかせられないぜハニー」
見たことないくらい楽しそうな顔してるし。ニヤニヤしすぎててちょっとイラッとするほど。
「新たな楽しみ方の発掘かもしれない」
得意満面な様子だけど、俺はたまったもんじゃない。
「いーから触れって!」
声をひっくり返しながら大きい声を出してしまった。俺どんな顔してんだろう。なんか過呼吸になりそう。
「まぁまぁ、そう焦るな」
上から目線っていうかなんていうか、俺が彼の手中にいるのを無理矢理に感じさせられてるっていうか。
それにしたって、焦るに決まってんじゃん。
シャワーの水滴にすら敏感になって、下半身に直接当たると、無意識に声が跳ねて背筋がしゃんとなるほどだった。
「ハニー、可愛らしい。いつもとは違う色気が溢れている」
彼は俺の視線よりもずっと高いところから、その様子をじっと見つめていた。敏感になってる俺が水滴にすら翻弄されているのが面白いらしい。
「触ってもらうと気持ちがいいだろう?」
改まって言うほどのことではないが、なんて笑いながら言う。
内股気味の俺の腰を支え、再び前も後ろも太い指でなぞるように触れてきた。
「ぅん、きもちいよ」
自然と揺れた腰が、もう突っ込まれたみたいに激しく前後する。彼の指はさっきと同じように、俺の一番奥を刺激しながら、前を丁寧に擦ってくる。
彼のもかなり興奮してる。すっかり真上を向いて、全体が少し黒ずんだ赤色になっていた。
俺が触れようと手を伸ばすと、彼はそれは反則だといって、また手を離してしまった。
「っ! なんだよ、焦らしやがって……」
内股が震えて止まらない。
「焦らすとハニーの目つきが鋭くなる。その視線にゾクゾクする」
いかにもMみたいなこと言う。ちょっとだけ野獣っぽく目を光らせながらニンマリ微笑んでるのを見ると、こっちまでそそられる。
「お前だって、すげぇ顔してる」
男に興奮する日が来るなんて、って思ったのも遠い昔の話だった。俺だけの男は、俺だけにその興奮を向けてくれる。
「俺のことを誘う顔、してる」
自分の体が芯からじんわり熱くなるのを感じながら、彼の首に腕を絡める。彼は拒絶せずに俺を受け入れてくれた。
「お仕置きなんだか躾なんだかわかんないけど、俺のこと試そうとしてんだったらマジでもうやめて。時間の無駄だから」
ギリギリ届く範囲で何度も軽いキスを繰り返しながら、必死で彼のための英語を紡いだ。
「そんなことより、ちゃんと触ってほしい」
こんな恥ずかしい英語、仕事ですら訳したことがないし、彼にしか話したことない。
「せっかくちゃんと触れ合える時間なのに、こういうつまらないことで時間潰すのはあんまり好きじゃない」
意地悪されたいためにここにきたんじゃないし。
もう本来の目的がなんだったのかも、そもそもそんなの決めてたのかも思い出せないまま、シャワーに打たれながら請い、キスを繰り返した。
「ちゃんと触れ合いたい。普通でいいから、ちゃんとお前のこと感じたい」
水音に混じって聞こえるかどうか、本当に小さい声で囁くと、途端に締め付けられるみたいに抱きしめられた。
「ああ…… すまなかった、俺は一体何をしていたんだ、愛するお前に、こんな当たり前のことを言わせてしまうとは」
もともとリアクションが大きい方だったけど、今の彼のリアクションは、俺の想像よりも殊の外大きく殊の外後悔の色が強かった。
「どうかしていたんだ、許してくれ。お前は小悪魔のままでいいのに、俺は何を血迷ったんだか……」
「いや、そんなに言うほどのことじゃねぇだろ」
とはいえ、こういう企画モノみたいな、ちょっと演技しちゃうみたいなのは、俺たちにはあんまり向いてないような気はするけどね。
改めて向かい合う。綺麗な瞳の色。日本人丸出しのこげ茶の俺の瞳とはまるで違う。その瞳の中に、水が滴ってる俺の顔だけを写して。
「ちゃんとしよ。ちゃんと仲良くしよ」
出来るだけふわっと微笑む。
オイタを叱られたみたいな顔をした彼が、これまた殊の外大きく頷いた。
「許してくれるのか? 本当にお前は心優しい妻だ」
「このくらいは許すでしょ別に」
別に本当にいじめられたとかそういうわけじゃないし。
結局お仕置きだか躾だか、なんだかわからないうちに終了した。やっぱそういうのは、俺たちには似合わないってことだろう。
「じゃあ」
改めて見つめあって、触れるようなキスを1つ。すぐにえぐるような深いキスを何度も繰り返した。
唇を重ねたまま、壁を探るようにしていたが彼が、シャワーを止めた。シャワールームに、天井から落ちる水滴の音と、俺たちの唇からの音が響く。
「っ、ん……」
少し苦しい。そう思うとすぐに離れすぎないくらい唇を離してくれる。
隙間から湿っぽい空気が入り込んでくる。
「んっ」
たっぷり口に含んだところで、再び深くえぐられた。
「ぁ……」
存分に口の中を探られてから解放された。唇腫れそう。明日たらこ唇になってたらどうしよう。
「ハニー、手をついてくれ」
言われて、ガラス張りの壁に後ろ向きで手をついた。
「なぁに」
頭がぼんやりしたまま尋ねる。重ねて、ケツを突き出すように言われた。
「っ、ちょっと」
俺が出したのじゃ満足できなかったみたいで、腰を掴んだまま思いっきり引っ張られる。すげぇへっぴり腰みたいでダサい格好だった。
彼がしゃがみこむ。俺のケツの目の前で。
「これでいい」
ケツのあたりから満足そうに言われると、本当に微妙な気分になる。
「全然よくねぇし」
でも言われた通り、しっかり壁に手をついたままだった。
「まぁまぁ、嫌いじゃないだろう?」
「嫌いじゃないけど、なんかちょっと複雑」
「気のせいじゃないか?」
適当なことを人のケツの間から言われ、静かにゆっくりと舌を這わされる。
「っ、うー……」
敏感な部分をこうやって舐められるのは、正直あんまり好きじゃない。恥ずかしいし、綺麗な部分じゃないし。けど、彼を受け入れられる場所でもあるから、彼の思うままに扱わせてやりたい気持ちもある。だから複雑。
だからせめて積極的にお腹にいい食べ物食べようとか、そういうことは日々かなり意識してるわけで……ってまぁそういう生々しい話は今はいい。
ひと舐めされるだけで敏感な合間全てを網羅されたような気になる。
体が火照って熱い。素っ裸の2人きりの空間は、俺が感じて少し声を出しただけで室内に過剰に音が響いた。
「聞かせてくれ。そうじゃないと、自信が持てないからな」
なんていうけど、彼の技術にどれだけ泣かされてきたことか。
「っ、うぅ」
我ながら相変わらず色気のない喘ぎ声。喉から絞り出すみたいなこの声をいい加減なんとかしたいもんだ。それでも彼は満足そう。
「気持ちがいいのか!? よかった、最高だ!」
外国人ってどうして嬉しそうな時ホント大げさに声を弾ませるんだろう。楽しくてしょうがないみたいなキーの高い音で言いながら、再び顔を俺のケツの間に埋める。
「ちょっと、おっ!」
かたや思いっきり日本語で喘ぐ俺。だいぶ日本語を、殊にソッチ関係の言葉をよく覚えてきた彼は、俺が喘ぐたびに攻める手を更に強くしていく。
「よしよし、気持ちいいなら我慢しなくていいからな」
体に直接言い聞かせるみたいに、俺の腰をしっかりと押さえつける。
「ちょっ、だめ、やだっ」
「そのダメというのも、本当は嫌じゃないということだろう?」
「だからあっ」
何言ったって聞きゃしない。それは嫌という程わかっている彼の性格で、どんなに訴えたところでやめはしないだろう。俺も俺ですっかり慣らされてるし。
穴から唇を離して、今度は毛を剃ってツルンとした一房を口に含まれる。
「あ……っ」
舌で、軽く潰したり転がしたりするみたいに刺激される。目を見開いて、爪で壁を引っ掻いた。
そのまま飲み込まれそうなくらい、強く吸い付かれる。ちゅうちゅう音を立てながら吸われる。別に気持ちいいわけじゃないけど、彼の口の中に囚われてると思うとなんだか興奮が増す。
「あっ、ねぇ、やめて」
動こうにも腰を固定されているから動けない。しまいに俺の片脚を持ち上げて、より深く顔を押し当ててくる。むちゃくちゃ恥ずかしい。
「やだぁっ」
変に裏返った日本語で訴えた。我ながらなんて声出してんだか。でもだいぶ日本語のわかるようになった彼は、声色を意訳して俺の言わんとしていることを察してくれる。
「そんなに嫌か? 可愛らしいのに」
見下ろした彼は、しゃがんだまま露骨に残念そうな顔をしている。俺は両脚ともガクガクに震えてるってのに。
「めっちゃ恥ずかしいしっ、無理!」
思いっきり首を横に振る。すると、立ち上がった彼に、軽く唇を奪われて、両手で包むようにケツに触れられた。
「ハニーは恥ずかしがり屋だなぁ。もっと大胆でもいいのに」
奥ゆかしいというやつか?言いながら首を傾げてるし。
「普通あんな格好していたら恥ずかしいに決まってんじゃん!」
訴えるけど、これといって心に響いた様子もない。
「まぁいい、時に大胆に求められた方がより興奮するからな」
ニヤニヤしてるし。
「肩につかまってくれ」
そのまま俺の手を取り、自分の肩に置かせた。
「なに……」
「そんなに警戒することはないさ」
くっくっと悪役みたいに笑ってる、その口から発せられる言葉を信じていいものかどうか。
俺の悩みをよそに、いきなり俺の両太ももを一気に抱え上げた。
「うわっ!」
ゆるくつかまってたけど、本当に落とされないように一瞬でしがみついた。
「何すんだよ!」
「まぁまぁ、カリカリするな」
ぷんすかしている俺の体は、両膝裏に押し込まれた彼の腕と壁で支えられて、宙に浮いている状態。
「こわい」
改めて自分の置かれた状況を理解して、ついぽろっとこぼしてしまった。
「恐れることはない、大丈夫だ」
優しく囁きながら彼が動く。開かされた脚の間、最も敏感な部分に、感じ慣れた彼の先端が触れた。
「えっ、このまま?」
腰をすっかり浮かされて、彼の腕に身を任せただけの状態で受け入れたことはない。目の前の彼の瞳が、ちょっとだけ野獣めいて光ったように見えた。
「新しい趣向さ。これならいいだろう?」
「新しいって……」
あとは受け入れるだけって体勢で、拒否しようにも出来ない。
「本当ズリぃなお前……」
目の前で力なく睨むことしかできない。
「俺だけが支えの状態っていうのも悪くないだろう。むしろこの結論にたどり着くのが遅かったくらいだ」
我ながらいいアイディアだ、と言わんばかりにニンマリしている。
彼の腕も、俺の体重を支えているというのにビクともしないし。
「入れんなら、早くして」
ぶっきらぼうに言ってそっぽを向く。
「そんな素っ気なくていいのか? 落としちまうかもしれないぜ」
わざと両腕を動かして体を揺さぶる。
「ちょっ! お前マジで落としたら怒るからな!」
「冗談さ、俺が倒れたとしても、お前は俺の腹の上に乗せておいてやる」
言いながら、彼の先端が少し入り込んできた。
「えっ、あ……」
戸惑う俺の声なんかひとつも気にしてない。俺の体重でどんどん奥に入っていく。
「ちょっとおッ!」
声が裏返った。同時に、俺の背中を支えていた壁から、体が離された。
俺の体を支えているのは、彼の体だけになる。
「しっかりつかまっていてくれ」
優しく囁かれる。
「まぁ、俺が杭を打っているから落ちる心配ないが」
ニヤリと笑う。
「そういう言い方されると恥ずかしいんだけどっ」
杭とか言うな。深々と埋め込まれておいて抵抗することでもないんだけど、確かに落とされたら大惨事なんで。
彼の腕とアレだけで支えられた体のまま、ぎゅっと抱きつく。
「でも、気持ちよくして……」
だいぶ慣れたけど、やっぱりまだ恥ずかしくて小さい声で言った。
「Oh…… ハニー、本当に愛らしい。存分に気持ちよくしてやるからな」
途端、俺の中で彼のがピクッと震えた。
「あっ、ちょっと……」
「しっかりつかまっててくれ」
思えばこんな格好、AVなんかでは見たことあるけど、やったこともないやられたこともない。
男1人抱えても一向に腕力が衰えない夫を、ちょっと惚れ直しそうになる。
「うぁっ、やぁ!」
俺の体を軽く跳ね上げるみたいに腕を上下させる。筋トレでもしてるつもりなのか、その腕の動きに1つの緩みもない。
「あっ、まって、やっ」
いつもより深く、えぐるみたいに突き上げられる。ペースがつかめなくて苦しい。彼のペースに翻弄されるがまま、とにかく彼にしがみつくことしかできなかった。
「はぁっ、あっ、あ」
思いっきり日本語で喘いじゃう。こればっかりはどうやっても英訳できない。
「どうしようもないなハニー、俺もお前も、この行為が心地よくて仕方ない」
息を荒げながら囁いてくる。耳穴に直に囁かれると、耳から食べられてしまいそうな気がしてくる。
「相性、いいって、ことだろ」
喘ぎすぎて息も絶え絶えなのを、無理矢理囁いて笑ってやる。彼が喜ぶからとかじゃなくて、俺も心からそう思ってるから。
「ああ、もちろんその通りだ。俺たちは愛し合っている。それが体にきちんと現れている証拠さ」
「だな。すっかり馴染んでるし」
彼のが体の中を動くたびに、自分の体の奥が、心が、満たされていくのを感じる。どれだけ縋っても、彼はしっかり受け止めてくれる。それをわかっているから。
「もういいか、我慢ができなくなってきた」
珍しく、彼が根をあげる。
「んって、いいよ、俺ももう無理っぽい」
彼が言わなかったら、俺の方が何も言わずに先に達してたと思う。
「一緒にイこうか」
唇を奪ってきた彼が、ニンマリ笑いながら、汗を滴らせて言う。腰の動きを止めて、意向を伺ってくる。
「一緒には、イったことないな。いっつも、俺が先に、いっちゃうから」
心臓が馬鹿になったみたいに動いてる。
余裕綽々みたいな彼の目の中にも、興奮してちょっと獣じみた強い意志みたいなものを感じる。
「それならぜひ、一緒にイこう」
どっかに出かけるみたいな手軽な言い方に聞こえて、ちょっと気持ちが軽くなる。
「うん、イく」
だから、こっちもこっちで、ついヘラっと笑っちゃった。
「ハニー、笑顔がとてもキュートだ」
「そうかよ、ありがとよ」
「その笑顔が俺だけに向けられていると思うと、余計興奮する」
「そりゃどうも」
彼の腰の動きが徐々に性急になる。ろくに声を出すこともできなくて、しっかりと俺の体を支えてくれている彼の首に、必死にしがみついた。
「っ、ぁっ、あぁっ」
本当すごいなコイツ。腕を痛める様子もなく、腰の動きだけ激しくなる。体幹強すぎんだろ。なんて頭の隅で思いながら、思考のほとんどを快楽に捧げる。
「ハニー、大丈夫かっ?」
キスを見舞われながら、急いた彼の声を耳穴にねじ込まれる。しつこいくらいに中を擦られて、どこまで奥に入っているのかもわからないほど、中全体がヒリヒリする。
「大丈夫、ぅんっ」
「もうイってもいいか?」
「ぃいよっ、俺も……っ」
イきそう、というより先に、彼がいつにも増して荒っぽく「もう限界だ」と吐息で囁いてきた。
それだけでも十分、密閉されたシャワールームの中で響いたような感じがして、頭がクラクラしてきた。
「イって、大丈夫だから、俺もイくからっ」
言葉短に言いながら、彼を煽るように彼のほっぺたに何度も口付ける。その過程で彼は俺の唇を奪い、それを契機にしたように強引に中をえぐってきた。
「あっ! あぁっ」
もう言葉も喋れない。彼にすがりつくのに必死で、俺自身がどうなっているのか、どうしたいのか、全然わからないまま。
「っ、ハニー……っ!」
彼の体が震える。体の奥が熱くなる。俺も俺で、ムスコが跳ね上がるみたいに震えてる。
イった、って気づいたのは、頭が真っ白になって落ち着いてからだった。
「一緒に、イけたな」
荒い息もそのままに、第一声を吐いたのは彼だった。視線を自分の腹の上に落とす。俺が吐き出した熱が、やけにぬらぬらと光って見える。
「わかったから……降ろして……」
いわゆる賢者タイムというやつで、現状を把握すると、なんかとてつもなくこっぱずかしい気持ちになるのだった。
だってシャワールームで素っ裸で彼に抱きかかえられたまま喚いてたなんて、恥ずかしい以外の何でもないじゃん。
「もう少しこのままでいさせてくれよ」
降ろしてくれそうにはない。
「このスタイルが気に入った」
「はぁー? 嫌だよ、この姿勢結構しんどいんだぞ」
体軟らかくないから、我に返って脚広げてるだけでも辛いことに気づく。
「股関節のストレッチにもなるだろ?」
悪びれた様子もない。
「ストレッチなんかしなくていい」
「体をほぐすこと自体は悪いことじゃないぜ、お前もジムに通ってるから分かるだろ」
もちろん。結婚を機に一緒に通うことになった、彼御用達の高級ジムに。そこのトレーナーにも体が硬いと言われたことがあったっけ。
「それに新たな体位の開発にもなるし」
ウインクしながら言うもんだから、せっかく納得しかけた気持ちが折れた。
「それ言いたかっただけじゃねーか」
「まぁまぁそう言うなよ、日本には数百年前から伝わる伝統の体位があるらしいじゃないか。なんだか50個近いと聞いたが」
「それは」
四十八な、と言おうとしてグッと飲み込む。本当にこいつの探究心というかなんというか。呆れてモノが言えない。
「いろいろなことに一緒に挑戦して、もっとお前のさまざまな顔を引き出したい」
そう目をキラキラさせながら言われると、なんだか無碍に断ることもできず……。
本当ダメだよな、俺。こいつが喜ぶことにノーと言えない。
「わかった。体がほぐれるまで待って……」
真っ赤な顔をなるべく見られないようにしながら、呟くので精一杯だった。
2:side I 終わり
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