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第7話

◇◇ 荘厳な鐘の音が、教会の中に響き渡った。 教壇の前では、新郎と花嫁が見つめ合い、そのすぐ側には優しそうな顔をした牧師さんが立っている。 「…(なんじ)健やかなるときも」 牧師さんが、慣例の言葉をなぞっていく。 「病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも」 もしもこの手を伸ばしたなら、僕は罰を受けるだろうか。 「富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い」 それでもいい。ボクは、僕はーー。 「共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか? 」 ーー欲しい。僕は、兄さんが欲しい。 渇望した心が悲鳴を上げ、パリン、と胸の奥で何かが割れる音がした。 押し留めていた、どろりとした感情が流れ出す。 複雑で、色々な色の混ざった淀んだ感情。しかしその核にあるのは、ただただ純粋な兄への愛慕。 「はい、…誓います」 渡さない。誰にも、渡したくない。 だって兄さんは、僕のものだから。そうだよね、兄さん。 「っ、兄さん‼︎」 気が付けば、走り出していた。 呆気にとられる一同を前に、兄さんの腕を引いて、絨毯の上を全速力で駆け抜ける。 一拍置いて、誰かが後方で何か叫ぶのが聞こえた。 僕は無視して、兄さんの手をしっかりと掴んだまま、式場の外へと躍り出る。 「…っ、一青…」 兄さんの、戸惑うような声が耳を掠めた。 僕は我慢出来ずに、兄さんを抱き寄せた。ふわりと、香水の匂いに混じって、兄さんの匂いがした。 「お前は、本当に…」 耳元で、兄さんがふっと笑う音が聞こえた。 見上げれば、至近距離で視線がぶつかる。 ビー玉みたいな黒い瞳が揺れて、その目がきゅうっと細められる。 「……こんなことして、…一生、責任取ってくれるんだろうな?」 「…勿論。…兄さんは、僕のものだから」 「……なら、いいけど」 兄さんはふふっと悪戯っ子のように笑って、僕の胸板を押した。 僕は兄さんの手を取って、再び走り出す。 どこまで行こう。 兄という翼を授かった今なら、どこへでも行けそうな気がする。 いや、きっと行ける。この人が隣にいてくれれば、僕は天国へも地獄へも、羽ばたいていける。 ーー不意に、兄さんの声が僕を呼んだ。 ゆっくりと、身体が傾く。 耳を貫く、強烈な音。 目も眩むような、白い光。 ゴムがアスファルトに擦れ、辺りに響く不快な悲鳴。 驚く間も無く、僕は胸に強い衝撃を感じ、そのまま意識を手放した。

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