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第3話

 それにしても、と幸永は思う。  どうにも清史は幸永に何かを贈ろうとする傾向がある。今までも幸永が受け取らなかったり返したりしているだけで、幾度も絹や調度品、香に茶など様々なものを贈ろうとしてきた。  思えば出会った時も彼は幸永に高価な侍従の香を手に会いに来た。上等な絹の水干を着た、育ちの良さが滲み出ている綺麗な子供が、小さな手に美しい絵模様の描かれた陶磁器を持って幸永のいた山の中に来たのだ。子供は綺麗にきれいに微笑んで幸永の側に居続けた。幾日も幾日も、幸永が山にいる時必ず彼は現れた。そしてしきりに自らが纏う侍従の香りを幸永に付けたがった。それを幸永が許したことは今も昔も、一度もないが。  幸永が返しきれず貰ってしまった贈り物は二つだ。一つは使ったことのない侍従の香。もう一つは美しすぎる扇子。 (いずれはすべて、返さなければ……)  幸永はもうこれ以上清史と慣れ合う気はなかった。気がないというよりは、許されないことを悟ったと言った方が正しい。  幸永は貧乏貴族の妾腹の子。元服した後も、家柄が全てのこの世界ではたいした職にも就けず、母以外の家族にも、当然清史にもひた隠しにし続けている秘密が幸永にはある。何もかもが、高貴な清史とは不釣り合いだ。一緒にいるべきではない。  次に会う時には、貰った二つの品を返せるように用意しておこう。  そう胸の内で予定を立てて、幸永は与えられている自室へと入っていった。  しかしこの宴が引き金となり、幸永の家は没落の一途をたどることになる。

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