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第2話
歴史を紐解くと、オメガは古来、蔑まれ、迫害された存在だった。
考えてみると不思議な話である。
人的に優れたアルファを産む確率が高いオメガを蔑むことは、結果アルファとしての人格を蔑む行為である。
神陽歴896年、哲学者のレイファーンがオメガ救済のためにその論文を発表した時、レイファーンは忌むべき存在を擁護したとして、投獄された。
しかしそのわずか五年後、オメガの聖魔力が発見され、現在のオメガ崇拝の基盤となった。
もっともレイファーンがオメガ人権を訴えて400年後の現在、オメガは魔法宮を束ね、あらゆる神事を行う神官的な役割も担うようになった。
それは本来、オメガを守るために行われてきた慣習だ。
オメガだと判明すると、魔法宮に引き取られ、魔術と神事について、英才教育を受ける。
そしていずれは王族や貴族などのアルファの番となり、王国を陰から支えていくのが定めだ。それは、長官であろうとなかろうと、生まれついた宿命なのである。
だが、ジェフリーは物心ついたころから、叔父のフィールや父のジュードのような騎士になることを夢見ていた。
精霊は好きだし、魔法は便利だ。
それは、ジェフリーにとって何も不満はない。
しかし魔術師に、神官になりたかったか、と問われれば、なんの迷いもなく、否定できる。
ジェフリーが憧れてきたのは、騎士だけだ。
他に何も望んでいないのに、騎士になることが不可能になったと言われたとき。
ただ、オメガに生まれ、聖魔力をもっているということだけで、騎士への道を絶たれたのだ。
しかし魔法宮に引き取られてから10年以上たつが、その間もジェフリーは剣術の鍛錬をやめることが出来なかった。
魔法宮で修業し働いている間も、毎日体を鍛え密かに剣を振るってきたのだ。
諦めなかったとか、そういう気持ちがあったというよりは、ジェフリーには剣がすべてだった。
やめろと言われて、はいそうですかと、やめられるようなものでは無かったということだ。
試験の朝、ジェフリーは朝早くに試験会場に出向いた。
名前を呼ばれ、3人と戦ったが、そのすべてに勝利した。
しかし、それは合格の基準ではないことを、ジェフリーは現騎士団長にして叔父のバーナバスに聞いたことがある。
騎士団に求められるのは、才能、人格、協調性だ。
いくら才能が有っても、命令に従えない人物は困る。
そして時に王族を警護することから、人格に問題があっても困る。
そして何より、今現在の強さよりも、訓練によって強くなるかどうか、ということも重要視されるのだ。
だからジェフリーは勝つということよりも、まず礼儀に即し、正攻法で相手を攻め、そして最後には密かに練り上げてきた剣技の片鱗を現して、戦った。
正攻法だけでは、剣筋を読まれてしまう危険性があるし、剣術指南としてはいいだろうが、それだけでは剣士としては物足りなさを感じてしまう。
試験官に、まだまだ引き出しはあるのだという一面も見せておかなくてはならない。
問題は、相手よりも、近くにいる精霊たちが手助けをしようとするので、それを押さえることだった。
一回戦の相手など、風の精霊のルドーに足をすくわれ転倒した。
ジェフリーは小さい声で、「ルドー。心配しなくても勝てる相手だから。見守ってくれ」と、お願いしなければならなかった。
試合の後、試験官に呼び止められ、「転倒した相手が、立ち上がるのを何故待ったのか」と問われた。
「もちろん、これが実戦であれば、容赦はしません。
しかし、第一に、これは試合であること。
第二に、私は騎士としてふさわしい戦い方を心がけました。
騎士ならば、相手に敬意を持つことを忘れてはいけませんから、そのように行動したつもりです」
その試験官が、満点でジェフリーを評価し、さらに採用を強く推薦したことは、ジェフリーは知るところではなかった。
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