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第13話

 アンジェの話に返答しながら、ふと、リチャードはジェフの戻りが遅いことに気付いた。 「どうしたの?」 「いや、連れが……ジェフの戻りが遅いから……」 「ああ、彼なら店を出ていったようよ?」 「え?」 「外套を受け取っていたもの」  それを聞いて、思わずリチャードは立ち上がった。 「まあ、リチャード、いいじゃないの!  せっかく気を聞かせてくれたんだし」 「アンジェ。  幼馴染だけど、君には相手をする男性がいるようじゃないか。  さっきからお父上から睨まれていてね、正直、居心地が悪い。  君は今すぐ席に戻るべきだと思うね」   それだけ言うと、リチャードはさっさと席を立った。  媚を売られてもリチャードには買う義理はない。  むしろ、心に決めた人がいるリチャードには迷惑だった。  それに、今日は最後だったのだ。  休みが明けたら、ジェフとは恐らく別々の配属になる。  最後の晩をこんな風に邪魔されるなんて!!  しかしレストランを飛び出したものの、ジェフの姿はもうない。  いつしか降り出した雨を避けるように、軒下をくぐるように先を進む。  ……そういえば、近くに宿を取るって言ってたっけ。  この近くなら、オースティンホテルに違いない。  どうせなら、酒を持って押しかけるか。  もちろん、部屋に女性がいるようなら、すぐさま引き返すけどな。    ニンマリと微笑んで、リチャードはバシャバシャと水たまりの水を撥ね上げながら、近くの酒場に入った。  手土産は悪酔いしそうな安酒……だがそれが俺たちには似合っている。  酒瓶を抱えてオースティンホテルにやってくると、部屋の番号を聞いて突撃する。  ドンドンと、扉をたたくが、返事はない。  リチャードの薄手のローブから、雨が滴り落ちていた。  まさか、もう眠ったのか? 「ジェフ!  いないのか?」  無意識にドアノブを回すと、施錠をし忘れたのか簡単に開いた。  ええ……?  驚く間もなく、背後から突き飛ばされて部屋の中に立ち入った。  そしてその瞬間、リチャードは濃厚な甘い香りに包まれた。  リチャードにはもちろん、その匂いがオメガの発する匂いだと気付いていた。  しかし今まで嗅いだことないほど濃い匂いは、リチャードを簡単に酔わせるほどだった。  しかも彼の目にはベットの上で薄着で横たわる、ジェフリー・レブルが映っていた。  彼は無防備に、バスローブを羽織っただけの姿でベットに横たわっている。  自分が手にしていた酒瓶を床に落としていることも、リチャードを招き入れた扉が一人でに閉じられたことも分からぬほど、リチャードの双眸は目の前の麗人に注がれていた。  彼の目にはもう、ジェフリーしか見えていなかった。  宿に付くとすぐに、雨に濡れそぼったジェフリーのために宿の主人が体を温めるお湯をバスタブに用意してくれた。  体を温めると、少し冷静になれた。  心を落ち着けるように、深呼吸すると、ジェフリーは予定通りに事を進め始めた。  まずは、髪を切り落としてしまおう。  簡単だが、難しい。  ジェフリーは目くらましの魔道具を外し、本来の姿に戻った。  肩口で髪をまとめると、その上にザクザクとハサミを入れた。  魔術師の髪には多くの魔力がこもっている。  魔道具の原料にすらなる髪を切るときは、一本のこらず回収しなくてはならないのだ。  最初に纏まとめておくと、実に簡単だ。  それから結界を忘れていたと思い出し、風の精霊ルドーに頼んで部屋全体を結界で覆う。  こうしておけば、濃縮した発情期を迎えるジェフリーが泣こうが喚こうが外に漏れることはない。  ジェフリーは最後に残った、発情期を押さえる魔道具の指輪を取り外すと、来たる衝撃に備えてベットに横たわった。  結界を施していたため、リチャードのノックも声も聞こえなかった。 「リチャ―……ド?」  ジェフリーは朦朧としながらも急に現れたリチャードの存在、身が溶かされるような甘美な匂いを感じ取り、唇を濡らすように舐めた。  風の精霊ルドーの結界は、人がどうこう出来るものではない。  何人も立ち入れないはずの場所に何故リチャードがいるのか、など、冷静に考えることなど、今のジェフリーには不可能で……。  ジェフリーは、ただ一人のアルファ……自分でも気づかぬうちに心の中に住み着いていた、同期にして同部屋のリチャードに向かって本能のままに手を差し伸べ、自らの横たわる寝台ベットへと誘った。  一方リチャードは、魔法によって極限まで濃縮されたオメガフェロモンの作用と、何より彼が誰よりも欲している人物に誘われているという状況に、わずかに残る理性など簡単に崩れ去った。  リチャードはジェフリーの上に覆い被さるように横たわるとジェフリーを抱きしめ、舌を絡ませるように深く口付けた。  無我夢中で、ジェフリーの肌を味わう。 「はぁ……はぁ……はぁ……あああ……リチャ……」  リチャードがジェフリーのバスローブをかき分け胸の突起に吸い付くと、ジェフリーは細身の体を跳ね上げて反応する。  片手でジェフリーの中心を探り当てると、それはリチャードのそれに負けないほどの欲望を湛たたえて熱く硬く張りつめていた。  「ああ……リチャ―……」  ジェフリーはリチャードの愛撫に、直接触れられてもいない後孔から体の奥から湧き上がる熱を愛液変えて吐き出した。  誰も受け入れたことのないその場所は、濡れそぼってリチャードを激しく誘惑する。 「……ジェフリー……濡れてる……」  恍惚としてリチャードが指先で触れると、後孔は挿入を待ちわびるようにヒクヒクと痙攣して愛液がとろりと溢れ出した。 「はぁん…ぁん……イ、ヤ……。  み……見ない、で……」  恥ずかしそうに身を捩るその姿が、リチャードの欲望を爆発寸前までかきたてた。  興奮が極限状態になると、指が震えるのだとリチャードは初めて知った。   うまく動かない手にもどかしい気持ちで、自らの服を脱ぎ捨てていく。 「ジェフリー……ジェフリー……好きだ……あああ、挿れたい……!!!  ……ダメだ!!!  壊したくないっ!!!  ……はっぁ!!  ……あああ……待て、ない!!!!」  リチャードの混乱を来たした狂おしい声に、ジェフリーはそそり勃たつリチャードの雄に手を伸ばした。  濡れた鈴口を、ジェフリーの細い指が優しく愛しそうになぞる。  リチャードは短くはっと息を飲んで、ジェフリーの愛撫を受け入れた。  そのまま挿入してしまえばジェフリーの受けるダメージが大きすぎる。  だが欲望にたぎることを、ジェフリーのぎこちないながらもリチャードを喜ばせる動きは、崩壊した理性のつま先を、わずかに引き戻した。  先端からじわじわと溢れる欲望は、ぬめりとなってジェフリーの手に零こぼれていった。   それと同時にリチャードの武骨な指は、ジェフリーの後孔に抽挿された。  ぐちゅぐちゅとした淫猥な音をたてる肉壁は、時間をかけて3本目の指を受け入れたところでぎちぎちに広がり、美味しそうにリチャードの指を飲み込んでいた。 「はぁぁ……きもちいっ……それ……もっ……あっ………。  …………リチャ………もぉ、入れてぇ……」 「はっ……あ、いやらし、い……ジェフ……」  懸命にこらえていたものを強請ねだられて、リチャードが我慢できるはずもない。  リチャードはジェフリーの片足のひざ裏を押し上げるや、ジェフリーの中に一気に、深く欲望の象徴を突き立てた。 「あああああんっ、ん!!!!!  やぁん………おお……きっい!!!!  はっ……あん、あっ、あっ……。  リチャ……や、奥、奥がっ。  当たって……!!!!」  リチャードの意識はゆっくりと靄がかかり、徐々に我を失っていく。  ジェフリーと体を合わせ、包み込まれたその快感に、ただ夢中で体の奥を激しく突き立てた。 「ジェフ……ジェフ……!!! 好きだっ……!!  誰にも渡さない!!!  俺、の……!!!」 「はぁぁぁぁぁ……!!!  好、き――――――!!!  やぁぁぁぁん!!!  リチャ!!  リチャ!!!!」  ジェフリーの体はしなやかにしなり、飽きることなくリチャードを受け入れる。  そのまま夜を徹して、二人はお互いを貪むさぼりあった。  翌日体の奥にたっぷりと白液を注がれたジェフリーは、リチャードに先んじて意識を取り戻した。  自分を抱きかかえるように眠るリチャードを見て、取り返しのつかない失敗をしたことを痛感した。  オメガの発情期の妊娠確率は、限りなく高い。  ……妊娠、したかもしれない……。  ジェフリーは確かめるようにそっと、自分の腹部に手を当てるのだった。 

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