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第4話
始業式が終わったところで、やれやれという感じだった。
〝新任の先生〟という、くくりで体育館のステージにあがり、生徒に紹介される関係上、今日のために新調したスーツの上着を脱いで椅子の背にかける。窓を開け放つと、首から提げているIDカードがそよいだ。
学び舎は小高い丘の上に建っている。一般の教室棟、パソコン室や音楽室が配された特別教室棟、職員室など校務にかかわる部屋がフロアを占める棟。すべて三階建の校舎が渡り廊下で結ばれてコの字型を成す。
各教科準備室の窓は校庭に面している。丘のふもとに広がる田園地帯も、駘蕩 として流れる川も一望におさめる、というぐあいに見晴らしがよい。
窓枠に肘をついて、視線をさまよわせる。
在学中は図書室に入り浸ったものだ。学食のきつねうどんにハマって半月連続で食べたこともあった。放課後の教室で友だちと話し込んでいるうちに夜の帳 が下りて、戸締りを確認しにきた教師から下校するよう急かされたこともなつかしい思い出だ。
古巣に戻った、と実感が湧く。十代のころの自分の幻影が、現在 も校内のあちらこちらから「おかえり」と言ってくれているようだ。
と、引き戸をノックする音が響き、どうぞ、と応じる前に開いた。隆々としたスーツ姿の男性が、笑いかけてきながら敷居を跨いだ。
「母校で教鞭を執るって、ひな高のことがどれだけ好きなんだ、三枝」
「武内 先生、ご無沙汰しています」
三枝は深々と頭を下げた。年度初めに着任の挨拶をすませたさいに、武内──武内史明 とも顔を合わせた。しかし一対一で話すのは、卒業して以来初めてのことだ。
「三枝は教師になって、確か四年目か。全校生徒の前でしゃべるのも板についたのはともかく、早々と異動が決まったな」
「前任校に慣れたと思ったら辞令が下りて、おれ自身、びっくりしています」
三枝は抜き打ちの服装検査で注意を受けた生徒のように、髪を撫でつけた。
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