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第7話

「積もる話もある、近いうちに晩飯を食いにいこう。旧交を温めるついでに教育論でも闘わせるか」 「親睦会ですか、喜んで。ただ、新参者のおれが音頭をとるのは生意気っぽいです。幹事をお願いできますか」  三枝も白い歯をこぼし、大まかな日取りを、と卓上カレンダーを差し出した。  すると、荒々しくカレンダーを突っ返されたばかりか、武内はむっつりと黙り込んでしまい、気まずい空気が流れた。  三枝は羊の写真についた折り目を、できるだけ綺麗に伸ばした。話の接ぎ穂を失ったうえに、不機嫌と語るオーラが武内の全身から発散されているようで戸惑う。定期試験の問題用紙を綴じてあるファイルをキャビネットから適当に一冊抜き取り、ぱらぱらとめくった。  衣ずれが鼓膜を震わせ、手元に影が差した。反射的に顔をあげると、への字にひん曲げられた口が頬をかすめる近さにあって、どきりとした。  目縁に紅を()き、ファイルを勢いよく閉じると指を挟んだ。痛っ、と顔をしかめたところに耳許で囁かれた。 「おまえを誘ったんだ。邪魔者は抜きだ」  産毛がそよぎ、びっしりと鳥肌が立った。一概に生理的嫌悪感によるものとは言えない、それ。名状しがたいおののきが背筋を走り抜けて、ファイルが床にすべり落ちた。  武内は(はな)から三枝とふたりきりで食事に行くつもりで、ところが婉曲に断っていると受け取れる答えが返った。  気分を害して、だから一風変わったやり方で仕返ししたのだろうか……?  三枝はファイルを拾いあげて、ことさら丁寧に埃を払った。武内先生と水入らずでディナーなんて光栄です、と今さらはしゃいでみせるのは白々しい。  うつむきがちに眼鏡をずらして、鼻パッドの痕をこすると、 「おまえは相変わらず天然だな。からかいがいがあって、当分、退屈せずにすみそうだ」

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