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 第2章 皐月

    第2章 皐月  放課後の学校は活気に満ちている。バッチ来いだの、パスだパスだの、回り込めだのといった各運動部の掛け声が入り乱れてこだまする。  ホイッスルが吹き鳴らされて、そこに吹奏楽部の演奏が加わると、もはやカオスだ。  ゴールすると同時に、ストップウォッチがカチリと押された。矢木はホームストレッチを全速力で駆け抜けた勢いそのままに何メートルか走りつづけて、コーナーの手前で立ち止まった。背中を丸めて膝に手をあてがい、肩で息をする。 「矢木ちゃんセンパーイ、一分五十一秒三七」  マネージャーが、ストップウォッチを高々と掲げた。 「自己ベストどまりか……くそっ!」  舌打ち交じりに、スパイクの(かかと)でトラックを蹴りつけた。去年のインターハイでは、東海地方の男子が一分五十秒フラットの好タイムで優勝した。  一秒三七もの差を縮めるには、もっともっと努力しないと駄目だ。  毎度のことながらトラックを二周、激走したあとは肺がひしゃげたような息苦しさに苛まれて喉がひりつく。ユニフォームをたくしあげて汗にまみれた額をぬぐった。足を前後に開き、アキレス腱を伸ばす。  ひなた台高校に入学して十日後、オリエンテーションの一環でクラブ紹介が行われた。  高身長を買われてバスケ部から誘いがあったが、矢木自身は陸上競技に魅力を感じて入部した。高跳びをはじめ投擲(とうてき)競技に至るまでひと通り体験したすえに、兼任監督の顧問曰く、 「タッパがあるしバネが強くて足が長くて適度に筋肉質。走り専門でいけ」。  当初は短距離走一本槍だったものの、伸び悩み、いわば鶴のひと声だ。  こちらに適性があると監督から勧められて、中距離走の中でもっとも過酷と言われる八百メートル走に転向した。  七月の初旬に開催される県大会で敗退すれば即、部活を引退。だが、もしもインターハイの出場切符を摑むことができれば高校生活の集大成になる。

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