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第19話

「嫉妬かよ、ウザいわぁ」  床に飛び降りるなり腕立て伏せをはじめた。  武内は教え上手で、彼が授業を担当するクラスに在籍していた昨年は、数学の成績は右肩あがりだった。かといって尊敬できるか、といえば別問題だ。  はっきり言って虫が好かない、笑顔が偽物っぽい。そう感じる。  前世では俺が幕府軍、武内が薩長同盟に(うみ)していたのかもしれない、と思えるほどに。    五月晴れに恵まれた翌々日、球技大会が開催された。  女子はUVケアに余念がない。対する男子は、Tシャツに着替えた女性教諭を俎上(そじょう)に載せて、家庭科の望月先生は意外に巨乳だの、生物の相良先生は美脚だの、というぐあいに煩悩の塊だ。  ともあれ種目ごとにグラウンドおよび体育館に集合すると、さっそく応援合戦がはじまった。  ちなみに矢木は、ドッジボールで参戦する。全校で計二十四チームがトーナメント方式で争い、残り三チームになった時点で総当たり戦に変わる一大サバイバルだ。  試合開始に先立って、メンバー全員で円陣を組む。 「三年二組、ファイッ!」 「絶対優勝、賞品ゲットッ!」  と、戦闘モードに入ったところで作戦を確認し合う。経験者を集めたチームが断然有利なバスケットボールやバレーボールにひきかえ、ドッジボールは経験の有無を問わないために公平だ。  ルールが単純で、計十人の男女混成チームを組むのも全員参加を謳う球技大会に向いている。高校生にもなってドッジとかダセェ、とぼやいても、ひとたび試合が始まると熱くなるあたり根強い人気がある。  現に隣のコートでは、ソフトボール部のエースが、得意のサイドスローで敵チームを翻弄していた。  さて一回戦。内野でスタートの矢木はセンターラインでスタンバイして、指の関節をぱきぱきと鳴らした。審判がボールを投げあげるや否やジャンプして捉え、相手チームのコートに叩き込んで、まずひとり倒す。

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