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第20話
「矢木ちん、ナイス!」
ハイタッチを交わす余裕を見せつけたのは序の口で、最上級生の貫録勝ちだ。一年生のチームをあっさり粉砕した。
つづく二回戦も、
「楽勝、楽勝、体力温存」
うそぶくほどの圧倒的勝利をおさめて上位三チームへと一番乗りを果たした。次の対戦相手は実力伯仲、との前評判が高い三年五組。屈指の好カードだ。
ここで審判が三枝に代わった。ボールを小脇に抱えてセンターラインに進み出ると、両チームの面々を見回した。
「ルールをおさらいします。頭部および膝から下にボールが当たった場合は無効。反則は即、
退場だから気をつけて。フェアプレイの精神に則って楽しんでいこう」
三枝といえばワイシャツとスラックス姿で教壇に立つのが常だ。
矢木は、新鮮な印象を受ける半袖のトレーニングウェアスタイルに、しばし見惚れた。腕がむき出しで、肘の内側に静脈が浮き出ているさまにどぎまぎして、そんな自分の頭をぽかりと殴った。
気合が入った。副担が審判じゃ灰色判定もありと、いちゃもんをつけられないようにワンサイドゲームで撃破してやる。
三枝に勝利を献上する。それは武内にはできないことだから、なおさら勇み立つ。
ホイッスルが吹き鳴らされた。矢木の武器は持ち前のすばしっこさと、絶妙にスピンがかかるボールだ。
過去二戦で仕留めた人数はふた桁に達し、目下MVPの最有力候補だ。
今しも胸元めがけて飛んできたボールを受け止めるが早いか、あわてて後退する選手を狙って投げた。見事に命中して、戦力を殺 ぐ。
ドッジボールは攻守が目まぐるしく変わる競技だ。ボルテージがあがるにつれて、
「食らえ、稲妻ボール!」
「こっちは火の玉ボールだ!」
などとスポ根漫画のノリで必殺技が炸裂し合う。それぞれのクラスの生徒が応援に駆けつけてエールが飛び交うと、いちだんと盛りあがる。
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