予想通り白熱の展開だ。攻勢をかけたかと思えば守勢に転じる、というふうにコート中を駆け回っているさなか、矢木はチームメイトの腕に当たったボールが、ぽとりと地面に落ちるまぎわにキャッチした。 「ローカルルールに基づいて有効と認めます」 　三枝がそう宣告すると、好アシストぶりに歓声があがった。 　矢木は横目をつかい、眼鏡を押しあげるのにまぎらせて親指を立ててよこすさまに、いっそう張り切った。 　千手観音が複数の手から一斉にボールを投げつけるかのごとく、パスが回ってくるはしから腕をしならせて、一発必中といく。 　旗色が悪くなってきた三年五組は、標的をひとりに絞る作戦に切り替えた。内野から外野、外野から内野へとパスを送ってプレッシャーをかけておいて、足がもつれたところを狙い撃ちにする。 　思う壷にはまり、あちらの内野が六人残っているのに対して、こちらは矢木を含めて四人。 　矢木が放った入魂の一球を、相手チームのキャプテンががっちりと捕らえた。ボールを摑みなおすが早いか腕を後ろに引いて、反動をつけて投げる。 　ヤバい、と矢木は蒼ざめた。ボールが弾丸さながらのスピードで飛んできて、到底よけきれそうにない。 　それでもヘッドスライディングで塁にすべり込むバッターの要領で、腹を下に、咄嗟に空中に身を躍らせた。 　土埃が舞いあがるなか地面に伏せた、その、すれすれの高さをボールが通過していった。 ところが予期外のことが起きた。 　跳ね起きたせつな後ろ頭を襲ったその衝撃を音で表すなら、どん！　あるいはボスっ！　 　ハンマーでひと打ちされたように、がくんと顔が下を向いた。あれ？　間一髪でボールをかわしたぜ、イェ～イ、と思ったのは糠喜びだったのか？　 　矢木は頭の横をころころと転がっていく、ふたつに増殖したボールに目をぱちくりさせながら、這いつくばるふうに崩れ落ちた。 　ホイッスルの音(ね)が響き渡り、試合が中断した。 　つまり、こういうことだ。次の試合に備えてサイドコートで練習中だった二年生チームの選手が大暴投をやらかし、それが矢木の頭にヒットしたのだ。