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第23話

   救護テントには数人の先客がいた。傷の手当てをしてもらっているうちの、ひとりと目が合った瞬間、 「矢木も足を痛めたのか、仲間だな」  (きびす)を返しそこねて、手招きしてよこすほうへと、しぶしぶ歩み寄った。  パイプ椅子に腰かけて、ジャージの裾をめくりあげた武内のむこうずねには絆創膏が貼られていたが、彼はむしろ得々と足を組む。 「バスケの審判をやっていてラフプレーの巻き添えを食らった。アラサーの哀しい現実だ、反射神経が衰えてきたのを痛感する」  矢木は曖昧にうなずいた。メタボ予備軍っすね、などと黒い冗談を飛ばしても許されるほど親しくない。かといって、先生は適度にマッチョでイケてますと、おべっかを使うのは点数稼ぎ丸出しで嫌だ。  武内が背もたれを軋ませてふんぞり返った。 「三枝……あいつが生徒だったころの癖で、つい呼び捨てにしてしまう。おとといの放課後、三枝先生と水飲み場でぺちゃくちゃしゃべっていたな」 「別に、そんなでも……」  矢木は、わざと武内との間に一脚置いた椅子に腰を下ろした。  あいつ、という呼び方には優越感がにじみ、黒板を爪で引っかく音に鳥肌が立つのにも似て、口がへの字にひん曲がる。  パイプ椅子がまた軋み、つられて振り向くのを狙い澄ました正確さで頬をつつかれた。 「秘密主義への仕返しだ」 「おどけるのとか、キャラじゃないっすよ」  ぼそっと答えるにとどめて椅子をずらす。養護教諭の手がすくのを待ちわびる体で顔をそちらへと向けて、バリアを張った。

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