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第24話

 ドッジボールのコートのほうで、試合終了を告げるホイッスルが長々と吹き鳴らされた。  ややあって三枝が駆け込んできた。にこにこ顔とVサインから一目瞭然だが、 「矢木くんの負傷退場が発奮材料になったんだね、逆転勝ちした。矢木くんの弔い合戦だ、優勝を捧げるぞ、だなんて縁起の悪いことを言って闘志を燃やしているよ」 「うっしゃっー!」  矢木はガッツポーズをしながら飛び跳ねた。湿布してもらったほうの足に体重をかけてしまい、つんのめる。  はずみでパイプ椅子を道づれに倒れ込むと、三枝がすかさず腰に腕を回してきて、今度は素直に甘えた。  それどころか武内がごくごく微かに舌打ちをすると、ふざけたい衝動に駆られた。おんぶオバケもどきに、ただし控え目な上にも控え目に、三枝の背中に胸をくっつけてみた。 「先生、体幹が弱そうだからなあ。おぶさったら、ぺちゃんこになるかもっすね」 「試してみるかい? それはそうと試合に出るのは無理でも応援はしたいよね、コートまで送っていくよ」 「そこ、はしゃぐのは外で」  養護教諭に睨まれた。三枝とつれ立ってテントを出たところで、 「そろそろ体育館に戻るか。三枝、松葉杖になってくれ」    武内が傲然と要求してきながら、ふたりの間に割って入った。そして三枝と二人三脚のペアを組むように、腕を摑んで体育館のほうへと促す。  一陣の風に煽られて、土埃があたりを黄褐色に霞ませる。口の中がざらざらして、にもましてヤスリをかけられたように心がざらつく。  トンビにアブラゲ、と矢木は呟いた。今のは明らかに横入りで、教師としてどうよ? と声を大にして言いたい。

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