25 / 168

第25話

 それから数時間後、バテ気味だろうが受験生だ。化学式や年号を片っ端から暗記して、脳みそがオーバーヒートを起こすと小腹がすいた。  夜食を見繕いに台所に行くと、ちょうど妹も水を飲みにきた。  好きなだけ悩めば、と邪慳にされるのがオチだから、ふだんの矢木は妹に相談を持ちかけるなどという無駄なことはしない。しかし、猿にさえ知恵を拝借したい気分だった。 「なあ、ライバル視されてるっぽいって、相手、どんな動機だと思う。ハッシュタグ牽制みた いな、あくどい真似すんの」 「恋敵はさくさく排除しろ的なのが王道」 「恋とかじゃねぇし」    カップ麺のフィルムを引き破る。静電気で指に張りつき、ムキになって払い落とすそばから小馬鹿にしたように爪にへばりつく。  武内かよ、と吐き捨てるように独りごち、つまみ取ってぐしゃぐしゃと丸めた。旧知の間柄の特権とばかりに、三枝にべたべたするわ、三枝をこき使うわ、と見苦しいったら。 「非モテのおにいちゃんには難しいよね。けどライバルを蹴落とすコツはぐいぐい」  ぐいぐい? 三枝に、か? 的外れ極まりない、と矢木は口をとがらせた。  カヤクの袋を開けそこない、散らばった乾燥ネギを拾い集めていると、そこに右手が突き出された。そして妹は澄まして、ひと言。 「アドバイス料。ハーゲンダッツの抹茶」  粉末スープの空き袋を掌に載せて返すと、特製の調味油を奪い取られた。その応酬をきっかけに口喧嘩が勃発すると、もはや矢木に勝ち目はない。

ともだちにシェアしよう!