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第27話

 武内が車止めを跨いで園内に入った。三枝もつられて、つづいた。遊具はブランコが一基あるきりだが、ひと休みするにはちょうどいい。  あちらと、こちらのブランコに腰かけて、おぼろな月を振り仰ぐ。  武内が気まぐれにブランコを漕ぐ。鎖が軋めき、キィキィと物悲しい調べを奏でると、記憶を刺激された。  三枝は戯れに、ブランコが登場する中原中也の詩をそらんじた。酔っぱらいめと、からかうような視線を横顔に感じて眼鏡を押しあげると、照れ隠しに話題を変えた。 「現代文の教科書に、夏目漱石とか森鴎外の著作のダイジェスト版が載ってるじゃないですか。全編を読みたくなって図書室に借りにいった、なんて言ってくる生徒がいると教師冥利に尽きます……」  人差し指が唇に押し当てられた。 「今はプライベートの時間だ」  確かにオンとオフの切り替えは大事だ。だが話を遮るにしても、このやり方は俺様的でカチンときた。唇を手の甲でこする。すると、うってかわって朗らかな口調でこう言われた。 「一部の女子に言わせると、俺が攻で、おまえが受だとさ」 「隠喩の類いにしても、なぞなぞっぽいですね。高校生は流行語を生みだす天才だから、ついていくのが大変です」 「漫画やら小説やら、男同士の恋愛がテーマのBLってわかるか。攻は男役、受は女役の意味で、俺たちのツーショットは腐女子どもに妄想のネタを提供しているらしい。ひな高一推しカップル、ってな」  BL、カップル、と鸚鵡返しに繰り返してきょとんとした。無意識のうちにブランコを揺らすと、鎖を引っぱられた。  (おの)ずと横木と横木がぶつかり、鈍い音がくぐもるなかで真剣な顔が間近に迫る。 「あながち妄想だとは言えない。と言ったら、どうする」  どうすると訊かれても、禅問答めいていて返答に窮する。伏し目がちに2WAYバッグの肩紐をよじっていると、ライターが鳴った。

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