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第39話
シラけた、と仏頂面が語る。武内は台所へ行くと冷蔵庫を勝手に漁り、缶ビールを取り出すと、
「謝ってやったのに、ふて腐れて。ごっこだと言っただろ、ノリの悪いやつだな」
と、ぼやきながらプルタブを引き開けた。ひと息に呷ると承諾も得ずに紫煙をくゆらしはじめ、流し台に灰を弾き落とした。
「三枝、童貞なのか」
瞬く間に頬が紅潮して、正解だと告げる。
「どうりで洒落が通じないわけだ。でも男が守備範囲なあたり、ゲイなのは間違いないな。俺の前にカレシは何人いた」
過去には武内が出題して、三枝が答える立場にあった。高校時代に培われた力関係が根底にあるせいで、シラを切り通すのは難しい。
「大学のときと教職に就いてからひとりずつ。どちらの彼とも一年ほどで別れました」
「ふたりも、か。そいつらに後ろを使わせてやったことくらいあるだろうが」
「ありません! 口と手、どまりです」
嘘くさい、と言いたげに煙草を挟んだ指がひらひらと振られたが、掛け値なしに真実だ。
ふたりとも性的に淡白な性質 で、アナルセックスには抵抗がある、という三枝の意思を尊重してくれた。
武内は算盤をはじくように、鬚 がうっすらと伸びてきた顎を指先でとんとんと叩いた。方針が定まった様子で、煙草をへし折った。
「フェラは経験ずみなら上出来だ。予定が狂ったぶんも、おもてなしをしてもらおうか」
ローションのボトルは、浴室のドアの前に転がったままになっていた。それに意味深な視線を流してから、ダイニングチェアに腰かける。
足を大きく開くと、ファスナーの金具をつまんだ。それから三枝に向かって顎をしゃくる。
足の間にひざまずいて奉仕しろ、と暗に命じているのだ。
臆面もなくしゃあしゃあと、と三枝は眦 をつりあげた。
武内を張り飛ばしてやりたい衝動に駆られたものの、腕力の差は歴然としている。くやしいが、返り討ちに遭うのがオチ。
だいたい同僚というのが厄介な点で、喧嘩別れしたら仕事にも支障をきたしかねない。
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