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第44話
雄が、ぐんと反り返った。併せて、口腔の奥行きいっぱいに攻め入るように頭を抱え込まれた。
ちぢれ毛に鼻孔をくすぐられて、くしゃみが出そうになる。
ムッとするわりには、そういう設定がなされていたように、陽根をしゃぶりたてるかたわらふぐりを撫で転がす。
「む……ぉ……っ!」
まだるっこしい、というふうだ。腰を前後に打ち振られて胃がでんぐり返り、苦しまぎれに舌で掃く。
期せずしてスイートスポットを捉えた。
先走りが粘り気を増し、腰づかいに加速がつく。
まさか口内に放たれるのか。三枝はあわてて昂ぶりを吐き出し、ところが一瞬早く抜き取られた。
その直後、熱液が放物線を描いて額に降りそそぎ、それは吸盤が具 わっているように須臾 とどまっていた。
それから眉間で枝分かれして、どろりとした痕をつけながら伝い落ちた。
「いっぺん、この綺麗な顔にぶっかけてみたかったんだ。おもてなし、ありがとな」
そう、悦に入った様子で言ってのけて自身に手を添える。そして、いかがわしくテカる顔を画布になぞらえたように残滓をなすりつける。
生臭さが鼻を衝く。粘度の高い雫が目にしみて、三枝はしきりにまばたきした。
いわゆる顔射の的にされた……? 嘘だろう?
俯瞰する高さから自分を眺めているようで、怒りがこみ上げるより先に、呆然とへたり込む。しわがれた声で、せいぜい皮肉った。
「満足していただけて、何よりです……」
武内は鼻歌交じりに身じまいをすませると、すべらかな頬を軽くつねった。何が付着しているのか知らしめるように、にちゃにちゃと指をすり合わせる。
消防車のサイレンが、ドップラー効果で近づいたり遠ざかったりする。ただでさえ不安感を煽る音が、いっそう禍々しく響く。
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