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第46話
「うれしいな、ありがと」
と、押し戴くように受け取っても、口調は我ながら素っ気ない。家に持って帰ったあとも机の抽斗 に放り込んだっきりになる可能性が高い。
彼女のほうも「ありがとう」は社交辞令にすぎないと悟ったようで、しょんぼりと背中を向けた。
彼女に付き添ってきた女子が立ち去りぎわ、鬼畜を見る目で睨んできた。矢木は最敬礼でふたりを見送ると、しゃがんだ。
「好きとか、わっかんねぇよ」
告白されるのは、ここ一年で通算四回目で、しかし「面倒くせぇ」と思って断るのが常だ。ただ前回も前々回も、もう少しオブラートに包んだ言い方をした憶えがある。
ひところ塩対応という言い回しが流行ったが、塩は塩でも死海並に塩分が濃いものになってしまった。彼女に可哀想なことをしてしまって、後味が悪い。
ともあれ友人連中に、ラブレターっぽいのをもらったぜ、などと自慢しなかったのは正解だった。
首尾はどうだったと訊かれて、フッた、と答えたが最後、袋叩きに遭うのは必至。
拒否るとかありえねぇ、もったいないオバケが出るぞ、全国の男子高校生に謝れ──等々。
あげくの果てに呪いをかけられるのだ。矢木大雅、おまえのモテ期は終わった、死ぬまで童貞確定だ。
花時計の並びに設(しつら)えられた花壇で、ヒマワリが雄々しく葉を広げている。その葉の裏側にアブラムシがたかっているのを見つけて、つまみ取って潰す。
園芸部の顧問を務める三枝が丹精しているに違いないヒマワリを食い荒らすとは、不届き極まりない。
恋と、ため息交じりに呟いた。今度はすっくと伸びた茎をよじ登るテントウムシを指へと移す。
中学生のときにクラスメイトの女子とグループデートをしたことがあるものの、彼女に対して抱いた感情は〝カツカレーが好き〟の延長線上にあるような恋とも呼べない代物 だ。
妹曰く陸上バカの俺でも、焦がれ死にするような恋に訪れる日が訪れないとも限らない。
今のところ、まったく想像がつかないが。
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