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第55話

 すんでのところでティッシュペーパーをかぶせた。あふれるくらい放っても、賢者タイムに入るどころか一向に衰えない。  あまつさえ三枝と交わした会話の断片から官能的なストーリーを綴ってしまい、たちまちマックスに勃つありさまだ。  とり憑かれたように、つづけざまにオナる。  ペニスがひりひりしてきたころ、ようやく熱が引いた。丸めたティッシュが散乱して、栗の花に似た臭いが澱む。  大の字に寝そべった。射精一回あたりのカロリー消費量は百メートル走に相当する、という説があったっけ。その計算方法を用いると、いったい何百メートル走った勘定になるのか。  クラスの誰それでヌいちゃってさ、おまえ、ぽっちゃり系が趣味? といったぐあいに下ネタで盛りあがるのはだ。  だが男性教諭にオカズになっていただくのは、マニアックという次元を通り越して変態の域に達する。  だいたい三枝で欲情することじたい、異常だ。  苦い涙がにじみ、自己嫌悪という海で溺れそうだ。俺は汚い、土下座を一万回しても赦されないことをした──。  三枝に合わせる顔がない。以来、現代文の授業中はうつむきっぱなし、廊下の向こうに三枝を見かけると急いで回れ右をする、というふうに謹慎処分を受けているような気分で毎日をすごした。  そして迎えた県大会当日は油照りにみまわれた。  陽炎が燃えて、走り高跳びのバーがぎらつく。大会旗はぐにゃりとポールから垂れ下がり、開会式がはじまった時点で選手も審判も汗だくだった。 「あっちぃなあ……」  矢木はストレッチを終えると、ランニングシャツをばたつかせた。日陰で車座になって待機中の仲間の元に戻り、スポーツ飲料をがぶ飲みする。  トラックの体感温度は四十度を超え、最悪のコンディションだ。それでも集合がかかると、しゃきっとした。 「うし、出番だ、行ってくるわ」 「矢木ちゃん先輩、ファイッ!」  不敵な笑顔で応じた。今日という日に照準を定めて調整してきた甲斐あって、予選は難なく突破した。

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