62 / 168
第63話
白い歯がこぼれて、ますます胸が締めつけられた。惜敗を喫したショックによる後遺症だ、そうに決まっている。
以上、QEDとこじつけてプルタブを引き開ける。そして思う。メロンソーダなんてガキくさい飲み物だ。
無糖のコーヒーを選んでアピールするチャンスだったのに、失敗した。
アピールとは大人度を? 何のために?
メロンソーダにむせる矢木をよそに、三枝は眼鏡を外すと、フレーム全体をハンカチで拭く。目許がむき出しになると、隈 が白い肌に毒々しい。
寝不足なのだろうか。矢木は、ちらちらと横顔を盗み見て思った。
だが隈が逆に色っぽい効果をもたらすと感じるそばから、ソーダをがぶ飲みする方向に専念する。
若くてキュートな女性教師にどぎまぎするならともかく、男性教師をつかまえて色っぽいもへったくれもあるか。くやし涙を流す羽目になったからといって、頭の中がとっ散らかりすぎだ。
太陽が燃え盛り、自動販売機の陳列ケースが乱反射する間を呟きがたゆたった。
「うん、やっぱりレースを観にきてよかった。気晴らしと言っては語弊があるけど、むしゃくしゃしていたのが、だいぶマシになった」
雲が刻々と形を変えるように、やるせないものがにじむ独り言は、自嘲的な微苦笑に溶け入る。
むしゃくしゃ、と鸚鵡 返しに繰り返すと、険しい目つきで睨まれた。
矢木は思いがけない反応にたじろいで半歩、後ずさった。しまった、またもや地雷を踏んだっぽい雰囲気だ。逆鱗に触れたのだとしたら、敗戦とのダブルパンチで二度と浮上できない。
もじもじと空き缶をへこませているところに、マネージャーが駆け寄ってきた。
「せんぱーい、表彰式、表彰式!」
ころっと忘れていた、という体で拳を掌に打ちつけてみせた。それからランニングシャツを翻して、三枝へと向き直る。
カジュアルなシャツの胸ポケットから覗くスマートフォンに向けて空き缶をひと振りすると、ことさらドヤ顔でうそぶいた。
ともだちにシェアしよう!