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第63話

 白い歯がこぼれて、ますます胸が締めつけられた。惜敗を喫したショックによる後遺症だ、そうに決まっている。  以上、QEDとこじつけてプルタブを引き開ける。そして思う。メロンソーダなんてガキくさい飲み物だ。  無糖のコーヒーを選んでアピールするチャンスだったのに、失敗した。  アピールとは大人度を? 何のために?  メロンソーダにむせる矢木をよそに、三枝は眼鏡を外すと、フレーム全体をハンカチで拭く。目許がむき出しになると、(くま)が白い肌に毒々しい。  寝不足なのだろうか。矢木は、ちらちらと横顔を盗み見て思った。  だが隈が逆に色っぽい効果をもたらすと感じるそばから、ソーダをがぶ飲みする方向に専念する。  若くてキュートな女性教師にどぎまぎするならともかく、男性教師をつかまえて色っぽいもへったくれもあるか。くやし涙を流す羽目になったからといって、頭の中がとっ散らかりすぎだ。  太陽が燃え盛り、自動販売機の陳列ケースが乱反射する間を呟きがたゆたった。 「うん、やっぱりレースを観にきてよかった。気晴らしと言っては語弊があるけど、むしゃくしゃしていたのが、だいぶマシになった」  雲が刻々と形を変えるように、やるせないものがにじむ独り言は、自嘲的な微苦笑に溶け入る。  むしゃくしゃ、と鸚鵡(おうむ)返しに繰り返すと、険しい目つきで睨まれた。  矢木は思いがけない反応にたじろいで半歩、後ずさった。しまった、またもや地雷を踏んだっぽい雰囲気だ。逆鱗に触れたのだとしたら、敗戦とのダブルパンチで二度と浮上できない。  もじもじと空き缶をへこませているところに、マネージャーが駆け寄ってきた。 「せんぱーい、表彰式、表彰式!」  ころっと忘れていた、という体で拳を掌に打ちつけてみせた。それからランニングシャツを翻して、三枝へと向き直る。  カジュアルなシャツの胸ポケットから覗くスマートフォンに向けて空き缶をひと振りすると、ことさらドヤ顔でうそぶいた。

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