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第65話

「メダルを授与される瞬間の動画をよろしくっす。で、メダルは観戦記念に進呈します、もらってください」  固辞されるのは決まり切っているから、えっ? という表情(かお)をしているうちに仲間の元へと駆け戻る。  火だるまと化すレベルで全身が火照り、レース中とは桁違いなまでに鼓動がうるさい。  その鼓動は、先生、先生、と胸郭に絶えずこだまして競技場の喚声をもしのぐようだ。  排水溝の蓋に蹴つまずいた。目から鱗とは、このことだ。  三日三晩にわたって考えに考えてもチンプンカンプンだった問題が、別の角度からアプローチすることで突破口が開けるように、摩訶不思議な心の動きの謎が解き明かされた。  俺は先生に恋をしている。  掛け値なしに、百パーセント恋をしている。  蓋が溶鉱炉であるかのように飛びのいた。他校の選手が通りすがりにクスリと笑っても、ガンを飛ばし返すどころじゃない。  ふと、薄紅色のものが視界をよぎった。  鳥が種を運んできたのか、ブナの木の根元で日日草がひと株、ひっそりと咲いている。  あの花のように、気がつかないうちに恋という種が心の奥に蒔かれて、笑顔という日光を浴びつづけたことで、ついに芽吹いたのかもしれない。

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