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第66話

 ただし、この恋は片思いのままで終わらせたほうが賢明だ、と冷静な頭の一部が警告を発する。  たとえば去年、隣町の高校でこんなスキャンダルが起きたという噂が広まった。  二十代の男性教師と二年生の女子の〝不適切な関係〟が発覚して、教師のほうは懲戒免職、女子は自主退学に追い込まれたとか。  ことほど左様に教師と生徒の恋愛は表沙汰になったさいの代償が大きい。  いいかえれば矢木が、三枝のことが好きだと友人に相談を持ちかけ、それが巡り巡って校長の耳に入ったが最後、三枝に累をおよぼす。  汗がしたたり落ちて、排水溝の底に澱む泥水に波紋が広がる。  恋心を自覚したとたん、抑制する方向へ自分を誘導しなきゃならないくらいなら、胸いっぱいに広がる甘酸っぱいものが恋だと気づかなかったほうが幸せだったのだろうか。  そんなことはない! 障害が多いから、という理由で最初からあきらめモードに入るのは、どうせ勝てないから、とレースを棄権するのと一緒だ。  そうだ、密かに恋い慕うだけなら許される。  かさつきはじめた唇を舐めて湿らせてから、できるだけさりげなく(こうべ)をめぐらす。  ひとしきり睦まやかなものが漂った自動販売機の横には、置き忘れられたメガホンがぽつり。

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