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第5章 葉月

    第5章 葉月  起き抜けにベランダで水やりをする。それが三枝の、この夏の日課になった。  行灯(あんどん)仕立てに蔓を支柱に絡ませた朝顔の鉢へと、静かにジョウロを傾ける。  園芸部の活動の一環で育てた朝顔を夏休み中は部員が各自、家に持ち帰って世話をする。三枝も顧問のよしみで、ひと鉢引き受けた。  種を採り、秋植えの花の苗や球根とともに文化祭で販売する。売り上げは部費に補充するシステムなので、水やりといえどもおろそかにできない。  ちなみに三枝が面倒を見ている葉っぱに白い()が入る品種はとりわけ人気が高い、と聞けばなおさらだ。  ところが、しなびた葉っぱを摘むつもりが蕾をもいでしまった。  吐息交じりに蕾を掌でくるむ。ため息をつく回数が最近、格段に増えたと思う。  今朝に限っていえば、その原因は、リピート機能が働いているように繰り返し耳に甦る前夜のやりとりだ。  ──会いに来てやったんだ。いらっしゃいませ、は……?  武内は部屋にあがり込むなり、仁王立ちになった足下にひざまずいて銜えるよう要求してきた。  ──話がしたい? 大人の会話はベッドの中でするものだ……。  口内に放たれた精を必死に飲み下した三枝をねぎらってくれるどころか、服を脱ぐようせっつく始末。  武内は、このところ週二のペースで訪ねてくる。職場ではもとよりプライベートでも頻繁に会うことができる、という環境は願ったり叶ったりのはず。  もっとも家デートと称しても情事が占める割合が大きいようでは、素直に喜べない。  較べるのは反則だが、過去、ふたりの恋人とは映画にも美術展にもドライブにも行った。夏休み中でもあれやこれやで忙しいとはいえ、たまには外で待ち合わせて飲みにいくなどしたいと提案しても、すげなく断られる。  武内の言い分は「父兄と出くわしたらくつろげない」。

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