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第102話
三枝は折しも眼鏡のレンズを磨いていた。驚愕ぶりをあらわに、つるが指から離れた。
矢木は素早く空中でキャッチした。そして恋文を捧げる、その予行演習のように恭しく眼鏡を差し出した。
「マジに真剣に恋しています。対応に困っても露骨に避けるとかだけはやめてください」
やかまし屋の教師が用を足しにきて、生徒は使用禁止だ、と小言を言う。
矢木はかしこまって拝聴し、そのじつ瞬殺の憂き目に遭わずにホッとしていた。
三枝は、といえば。第三者がいるところで滅多なことは言えないとあって、困惑顔で眉間を揉む。
そんな三枝にあえて一瞥もくれないで、足早に立ち去る。今さらながら膝ががくがくと震えだして、渡り廊下の途中でうずくまった。
やっちまった、告っちまった、どんびきされたかも。
これっぽちも三枝を困らせるつもりはなかったが、孵化する見込みがない恋情という卵をうじうじと温めつづけているより、当たって砕けろの精神で想いを伝えた点は天晴れだと思う。
フラれたら、フラれたときだ。晴れやかな気持ちで後片づけ中の教室に戻ると、しゃかりきになって働いた。
ちなみに〝白雪姫〟は僅差で二位に終わった──。
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