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第105話
毎度のことながら、げんなりする分量だ。採点をすませたら、個人別にデータを打ち込んで、正答率及び誤答率の高い問題の傾向を分析してと、やることはどっさりある。
国語科の他の教師も腹ごしらえをすませてから作業に取りかかるふうで、弁当箱やレジ袋を思い思いに広げる。
三枝も仲間に加わった。雑談を交わしているうちに知らず知らず、こんな質問を放っていた。
「バレンタインに生徒からチョコをもらったことって、ありますか」
「あたしは今年五個。ノリだとわかっていても生徒から慕われているかどうかのバロメータでしょう? うれしいものよ」
古文を担当する女性教諭がVサインを掲げたのにひきかえ、現代文を教える男性教諭はドーナツの穴を指し示した。
「俺は、このとおり。三枝先生は来年のバレンタインはチョコ攻めだ。若いし、独身だし、イケメンだし。ああ、羨ましい」
三枝は、もそもそとサンドウィッチをかじった。バロメータとは言い得て妙だが、あの告白は次元の異なる問題だ。
豆乳をひと口すすると、真顔になって言葉を継いだ。
「仮に、仮の話ですよ、本命チョコをくれた生徒がいたとしますね。どう対応します」
「どうするもこうするも、きっぱりと断るに限る。小娘の恋愛ごっこにつき合って魔が差すようなことがあれば、失うものが多いのはこちらと決まっているんだから」
四十がらみの男性教諭がウインナーを嚙みちぎった。
三枝は神妙にうなずくと、ストローの空き袋を卍型にねじった。
乱暴に言えば、矢木の気持ちはありがた迷惑の部類に入るのだから、付け入る隙を見せないのがいちばんだ。
第一、矢木がどうしたこうしたと思い悩むのは、武内に対する裏切りだ。
ありがた迷惑、と自己暗示をかける呪文のように唱えると、胸がツキツキと痛む。
食欲が失せ、赤ペン片手に三年二組の分の答案用紙を表に返した。
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