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第8章 霜月
第8章 霜月
「真夜中にいきなり押入を整理したくなって、中学の卒アルを発掘して、で、昔の遊び仲間のFacebookを調べてフレンド申請しまくってるうちに朝」
完徹した、と顔がむくんでいる男子が欠伸で締めくくったのを受けて、矢木を含めて数人の男子が一斉に腕で丸を作る。
予備校でしごかれてきたメンバーで〝受験生あるある〟を披露し合い、共感度を競っているところだ。
晩秋の夜風は冷たく、胴震いがする。それでもコンビニの駐車場にたむろして肉まんを頬張るのは、クールダウンを図るのにもってこいだ。
「我らが白雪姫、矢木ちんの番な」
マイクになぞらえたペットボトルを口許に突きつけられた。矢木はもったいぶって、色づきはじめた銀杏の木を振り仰いだ。
ひと呼吸おいて、託宣を下すように厳かに告げる。
「勉強のモチベーションは、ずばり恋」
「フラれたショック、イコール浪人決定よ? ないわぁ、リスクがデカすぎるわぁ」
ブーイングを浴びたうえにゴミ捨て係に任命された。それを潮に、
「おかんがキレるから、帰ろっと」
ひとりが立ちあがって尻をはたくと、
「言えてる。人の顔見りゃ勉強しろぉ、勉強しろぉ、ってマジにイラつくわ」
もうひとりが、のろのろとリュックサックを背負う。また別のひとりは矢木に膝蹴りをみまう真似をした。
「模試でA判定が出たって? 夏までボーダーすれすれだったのに、ずりぃぞ」
「だぁかぁら、モチベーションの問題。うまそうな人参が目の前にぶら下がってんの」
うそぶき、マフラーをヌンチャクのように振り回した。
卒業したら改めて告白する、と三枝に宣言してある。これが人参だ。もちろん玉砕覚悟だが、有言実行といくには、志望校に合格しておかないとカッコがつかない。
蕾が膨らんできた桜の樹の下で、制服の第二ボタンを三枝に献上するとともに「好きです」と告げる。
夢物語で終わらせてたまるものかと思うと、やる気が出るのだ。
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