109 / 168

第8章 霜月

    第8章 霜月 「真夜中にいきなり押入を整理したくなって、中学の卒アルを発掘して、で、昔の遊び仲間のFacebookを調べてフレンド申請しまくってるうちに朝」    完徹した、と顔がむくんでいる男子が欠伸で締めくくったのを受けて、矢木を含めて数人の男子が一斉に腕で丸を作る。  予備校でしごかれてきたメンバーで〝受験生あるある〟を披露し合い、共感度を競っているところだ。  晩秋の夜風は冷たく、胴震いがする。それでもコンビニの駐車場にたむろして肉まんを頬張るのは、クールダウンを図るのにもってこいだ。 「我らが白雪姫、矢木ちんの番な」  マイクになぞらえたペットボトルを口許に突きつけられた。矢木はもったいぶって、色づきはじめた銀杏の木を振り仰いだ。  ひと呼吸おいて、託宣を下すように厳かに告げる。 「勉強のモチベーションは、ずばり恋」 「フラれたショック、イコール浪人決定よ? ないわぁ、リスクがデカすぎるわぁ」  ブーイングを浴びたうえにゴミ捨て係に任命された。それを潮に、 「おかんがキレるから、帰ろっと」  ひとりが立ちあがって尻をはたくと、 「言えてる。人の顔見りゃ勉強しろぉ、勉強しろぉ、ってマジにイラつくわ」  もうひとりが、のろのろとリュックサックを背負う。また別のひとりは矢木に膝蹴りをみまう真似をした。 「模試でA判定が出たって? 夏までボーダーすれすれだったのに、ずりぃぞ」 「だぁかぁら、モチベーションの問題。うまそうな人参が目の前にぶら下がってんの」  うそぶき、マフラーをヌンチャクのように振り回した。  卒業したら改めて告白する、と三枝に宣言してある。これが人参だ。もちろん玉砕覚悟だが、有言実行といくには、志望校に合格しておかないとカッコがつかない。  蕾が膨らんできた桜の樹の下で、制服の第二ボタンを三枝に献上するとともに「好きです」と告げる。  夢物語で終わらせてたまるものかと思うと、やる気が出るのだ。

ともだちにシェアしよう!