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第121話
寝転がって、ちぎれ雲を睨む。卒業したら再アタック宣言が独り相撲に終わるとは、笑うに笑えない。
雲に同族嫌悪を抱き、天に向かって石を投げた。
涙は出ない、ため息ばかりがこぼれる。気がつくと、オナモミがびっしりとトレーニングウェアにくっついていた。
チクショー、と吼えながらむしり取っているうちに、ある情景が記憶の底から浮かびあがってきた。
あれは、確か五月。
スーパーマーケットで武内と鉢合わせしたことがあった。
ツレの美女は恋人だと、ほのめかしていなかったか? あの女性から三枝に乗り換えたのならまだしも、まさか二股をかけている……?
まんじりともしないでいるうちに東の空が明るんできた翌日、矢木は放課後になるのをじりじりと待った。
園芸部の顧問を務める三枝を、しばしば花壇の付近で見かける。内密の話をするなら、そのときが狙い目だ。
首尾よく三枝を中庭でつかまえた。
矢木は、プランターに植えつけている最中の葉牡丹を指さしながら、殊更にこやかに話しかけた。
「俺、ガキのころ、こいつにマヨネーズをかけて食おうとしたことがあるんすよね」
「微笑ましいエピソードだね」
──露骨に避けるのはやめてください……。
矢木がそう懇願したことを律義に守って、三枝は以前と変わらない笑顔を向けてきた。泥をはたいて軍手を外すと、目を細めた。
「髪が伸びたね。イメージチェンジだ」
そう指摘されて、へどもどと襟髪をつまむ。
部活を引退したのを機にスポーツ刈りをやめて、最旬のヘアスタイルをめざしているが、今はまだ中途半端な長さだ。
妹には「ムサい」とけなされる変化に好意的な感想をくれる。あの衝撃的な場面に心がズタズタになるまでなら、脈がある証拠だと成層圏の彼方まで舞いあがっていたに違いない。
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