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第122話
「独りぼっちで土いじりとかって切なすぎっしょ。可哀想なんで、手伝ったげます」
断る隙を与えずに、しゃがむ。ブレザーとシャツの袖をひとまとめにめくり、苗をひと株手にすると、
「植える順番の法則とかは」
「あっ、じゃあ、葉っぱが縮れているやつと丸っこいのを交互に」
「合点承知の助──って、じいちゃんの口癖で。ダセぇと思ってたけど、けっこう語呂がいいっすね」
「日本人は言葉遊びが好きな民族だからね。驚き桃の木サンショの木という語呂合わせもあるよ」
矢木はスコップで台車を叩いてリズムをとった。
学校は人目が多くて噂の宝庫だ。三枝に片思い中だ、と口さがない連中に勘づかれたら、三枝が火の粉をかぶるような無責任な噂をばらまかれかない。
だから、やせ我慢を張って接触を最小限に抑えていた。思い起こせば三枝とまともに、ふたりっきりで話すのは文化祭以来だ。
植えつけが終わったプランターを揺すって土を均 しながら、こしらえた感が漂うポーカーフェイスを盗み見る。
自分に対して恋心を抱いている男子と一緒に作業をする羽目になって、三枝は内心気まずいものがあるはず。
煮え切らない態度をとって夢を見させて狡い、傷つけられたぶんも意地悪してやりたい。
腹の中で毒づいても、そばにいるだけでやっぱり幸福感に包まれる。
ひとつの苗に同時に手を伸ばして、その拍子に指先が触れ合わさると、切なさ増量の甘酸っぱいものが胸いっぱいに広がる。
男の純情を踏みにじられた。にもかかわらず百年の恋も冷めるどころか、やるせなさや嫉妬心を養分にして、恋情という果実が熟していくようだ。
俺はドMだろうか、と苦笑交じりに縮れ葉の苗をポットから引き抜いた。
「先生、この苗、変くないですか」
「根腐れを起こしてる。脇によけておいて」
そう言われて、そうした。ポットの内側にへばりついた根をこそげ取ると、腐臭を放つ。
一見、健康そうな苗の根がうじゃじゃけているさまは、ある種の予言を思わせた。
頭にこびりついて離れない光景が恋心を蝕み、おぞましいものがはびこる未来を案じている──ような。
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