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第124話

「お似合いっつうか、幸せオーラを振りまいていました」 「そう……初耳だな。でも武内先生はモテるだろうから、おめでたい話があってもおかしくないね。ただし現段階ではだよね? 他言は無用で頼むよ」 「冷静なんすね、くやしくないのか!」  石灰を寄せ集めるというより、今やまき散らしている手を摑む。  すると凪いだ湖面のように静かな中に、怒りをたたえた眼差しを向けられた。たじろぎ、その間に三枝が空になったポットをまとめはじめた。 「矢木くんが手伝ってくれたおかげで作業が捗ったよ。予備校に通っているんだよね、遅刻しないよう、そろそろ下校しなさい」    よそゆきの笑顔が越権行為だと、とがめる。  一生徒の分際で教師の恋愛事情に口を挟むなんて何様のつもりだ──と。  矢木はうなだれた。靴もスラックスも土埃と石灰でまだらに汚れて、卑しい心根を具現化したようなありさまに、なおさら恥じ入る。  一礼してからその場を離れたものの、数歩と行かないうちに振り返った。  恋人の〝もうひとつの顔〟をすっぱ抜かれて、動揺しないはずがない。  現に移植ごてを握った手が、プランターと培養土の袋を機械的に往復するさまが、喩えようもなく淋しげだ。  このタコ、と自分の頭をぶん殴る。目撃談は昨日のことかもしれない、と疑心暗鬼に陥るように、時期についてはわざと省いて告げ口した。  三枝が武内を問いつめて、逆ギレされて喧嘩になって、別れちまえば溜飲が下がる。  そんな、あくどい目論見が確かにあった。  現実には後味が悪いだけ。指先にこびりついた土を舐めると、舌がひりひりした。  俺には仕返しする権利がある、と三枝を傷つけてしまったお詫びに、いずれ何かの形で償おう。そう、固く誓った。

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