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第131話

   翌日、仮病をつかって欠勤した。社会人失格だ。  昨日の今日だからこそ武内に毅然とした態度で接して全くダメージを受けていない、と示してやるべきなのだ。自分を叱咤して身支度をすませたものの、足がすくむ。  ベッドに倒れ込むと、ここで情事に耽った記憶が甦り、毛穴という毛穴が腐臭を放っているような厭わしさに胃がでんぐり返って、吐いて吐いて吐きまくった。  うとうとするたびに、全身が寝汗にまみれて飛び起きる。それを繰り返しているうちに宵の明星がまたたきはじめたころ、開放廊下を近づいてきた靴音が、三枝の部屋の前で止まった。  誰かが扉の外側でがさごそやっている気配に血の気が引く。  武内が、密かに作っておいた合鍵を使って入ってくるところなのかもしれない。そして前夜のつづきを……?  シェルターに閉じこもるように、すっぽりと掛け布団にくるまる。がたがたと震えながら耳をそばだてていると、靴音が再びこだまして、それは何事もなく遠のいていった。  大きく息を吐いて、そろそろと掛け布団をずらす。  ゆうべの出来事なんか黒歴史に加える価値すらない、と開き直るくらいじゃないと負け犬根性がしみついてしまう。  自分と武内のどちらかに異動の辞令が下るまで、こそこそと逃げ回るなんて御免だ。   喉が渇いたし腹がへった。気持ちを奮い立たせて台所に行き、冷めて膜が張ったおでんを手づかみで食べる。  たちまち胃が痙攣しても無理やり飲み下し、さらに冷凍してあった白飯をお茶づけにしてかき込む。  曲がりなりにも空腹を満たし終えると、峻険な峰をひとつ登ってのけたように表情がやわらぐ。  と、ともに先ほどの物音の正体が気になりはじめた。  もしも武内が待ち受けていた場合に備えて、ガードロックをかけたまま細目に扉を開ける。いきおいドアレバーが下を向き、そこからぶら下がっていたレジ袋がずり落ちた。

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