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第132話

 赤いものが透けて見えた。やはり武内が嫌がらせに何か置いていったのか。  勇気を奮い起こして袋をレバーから外し、こわごわ中を覗いてきょとんとした。  ポインセチアの小さな鉢植えが入っているとは想像の斜めをいく。  付箋がラベルに貼りつけられていて、それには〝お見舞い〟とある。名前が書かれていなくても筆跡から贈り主に見当がつく。  漢字の横の画を右肩上がりに書く癖。これは百パーセント矢木の字だ。 「いつの間に、うちの住所を調べたんだ?」  帰宅するところを狙って後を()けるなどの、ストーカーまがいのやり方で、他人の身辺を嗅ぎ回るような真似は八木には似合わないと思うのだが。  ともあれ鉢を窓辺に飾ってみた。すると換気しても換気しても生臭さが澱んでいたような部屋に、超高性能の浄化装置がお目見えした感がある。  昨夜来、醜悪な光景ばかり見せられてきた目には、現在(いま)はありふれたポインセチアが百万粒の真珠以上の清らかな光沢を放って映る。  艶やかな葉っぱに、そっと触れた。  病欠と偽ったせいで、矢木に気をつかわせて悪いことをした。万年金欠病に悩まされているに違いない高校生が、これを買うために犠牲にしたのは漫画本だろうか、洋服だろうか。  枯らしたら一大事だ。早速ポインセチアの育て方をスマートフォンで検索してみると、花言葉も紹介されていた。  いくつか例が挙げられているなかで〝慕われる人〟と〝わたしの心は燃えている〟にどきりとした。  矢木は真情を花言葉に託そうと考えて、ポンセチアを選んだのだろうか。だとしたら、自分はこの贈り物を受け取る資格がない。 「おれは、(けが)れている……」    さまざまな要素をはらんだ涙が睫毛を濡らす。ああいう誠実な子に恋していれば、たとえ片思いに終わっても、美しいものが残っただろう。  否、〝恋をしていれば〟ではなく、教室でも通勤のバスの車内でも矢木の姿を無意識のうちに捜すようになった時点で、すでに彼に惹かれていた。  だが今さら悔やんでも、もう遅い。〝武内のお古〟という身で矢木を恋うるなど許されるはずがない──。

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