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第133話
翌日以降、教科間の申し送りなどでやむをえないとき以外は、武内のことを徹底的に避けぬいた。
一度となく自宅に押しかけてこられたが、もちろん居留守を使った。
その場しのぎの対応では武内を撃退するには至らず、インターフォンを連打されると、典型的なトラウマの症状だ。
冷たい汗がたらたらと流れて、蹂躙された痛みが花芯にぶり返してうずくまる。ヘッドホンと大音量の洋楽で雑音を遮断して、フラッシュバックに襲われる苦しさと闘う。
学校の行き帰りは待ち伏せに遭う危険性が高く、要注意だ。
武内と背格好がそっくりな男が視界をよぎったさいには身を翻して逃げる。
忘年会に出席しても、武内がからんでくることを警戒して、座が乱れる前にこっそり帰った。
三枝は、おどおどと日々をやり過ごす自分が歯痒い。
泣き寝入りをするということは、鬼畜野郎を野放しにするということだ。
だいたい被害者のこちらに落ち度があるように、小さくなることじたい変だ。
武内の婚約者に、彼の本性はこれこれこうだと忠告してあげるべきだ、と考え、だが妊婦にショックを与えるのは忍びない。
ならば武内の行状をしたためた告発状を県の教育委員会に送ろうか。ただし好奇の目にさらされるのは覚悟があれば、の話だが。
第一、武内を下手に刺激すれば何をされるかわからない。
姑息な手段だが、逃げるが勝ちともいう。こちらの神経がすり減ってしまうか、武内があきらめるか、これは根競べだ。
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