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第134話

 煩悶のうちに終業式を迎えた。  底冷えがする体育館に整列した生徒たちの顔には同じことが書いてある。だるい、早く帰りたい──と。  三枝は同僚と並んで列の外側に立ち、制服の集団を見渡しながらそう思った。  いや、この視線は目的を持っている。無意識のうちに矢木を見つめがちな自分に気づいて、うつむく。  冬休みの間は挨拶を交わしがてら一言、二言話す機会はない。  朗らかな笑顔も、しかめっ面も、澄まし顔も、わざとしてみせる変顔も、しばらくは見られない。それが無性に淋しい。  夏休み中は矢木に会えなくても平気だったのとは、大違いだ。  教師としてあるまじき考えだ、と手の甲をつねる。確かに、あのポインセチアを枕元に置いて、寝しなに葉っぱを撫でるのが習慣になってから、悪夢にうなされる回数は減った。  その点では矢木に感謝している。だが、度を超えるのはもっての外。  矢木に惹かれるのは一過性のものにすぎない、と肝に銘じて、適切な距離を保つように心がけること。  相手は前途有望な身だ。  教師と生徒という枠からはみ出すことがないように、きっちりと線引きをして、正しい方向へ導いてあげるのが大人の分別というものだ。  眼鏡を押しあげた。校長の訓話は始業式のそれの二番煎じで、しかも長い。  眠気覚ましに背筋を伸ばしたせつな、三年二組の列でも同じように身じろぐさまが見受けられた。  当の本人がちらりと首をねじ曲げて、小さく目礼をよこすと、どうしようもなく胸がきゅんとなった。

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