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第135話
矢木のことが頭を占めている最中に、図らずも本人からサインが送られてくると、悪戯をしたのがバレたように決まり悪い。
そっぽを向きそこねていると、矢木は校長へと顎をしゃくって顔じゅうに皺を寄せた。
そして鞭をふるう仕種を交えて口をぱくぱくさせた。
──拷問……。
おそらくこれで正解で、噴き出しそうになった。三枝は頬の内側を嚙んで、ポーカーフェイスを取り繕った。
自然と笑みがこぼれるのは、例の夜以来初めてのことだ。
北国に遅い春が訪れて根雪が融けるように、カサブタがゆっくりと心の傷を覆いはじめた。その証拠のように思える。
回りに気づかれない程度に、矢木にうなずきかけた。もういっぺんと、ねだるふうな仕種が返ってくると、前を向くよう手ぶりで促すのはためらわれる。
理性の声に従って顔を背けるまでの数秒間、見つめ合った。
ふたりの間で、素晴らしく美しいものが共鳴した。そのやりとりで元気が出て、帰宅する途中クリスマスケーキを衝動買いした。
ところが武内から避難しがてら正月休みは実家で過ごし、マンションに帰ると、身の毛がよだつ出来事があった。
玄関のドアの前に、煙草の吸殻が散乱している。
人を凌辱しておきながら、ヨリを戻せると思っているのか。蛇のような執着心の強さに怖気をふるった。
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