132 / 168
第138話
と、三枝が真摯な眼差しを隈なく向けて、
「日ごろの実力を発揮すれば結果はおのずとついてくる。きみたちの健闘を祈ります」
教卓から身を乗り出して締めくくったところで、ちょうどチャイムが鳴った。
次の授業は化学室へと移動した。矢木は日直にあたっていたために、実験ノートを集めて職員室へ届けるよう仰せつかった。
あれやこれやで手間取り、休み時間が終わる直前に教室にすべり込む。そして世界史の教科書を机から取り出そうとして、指先に違和感を覚えた。
見覚えのない小さな紙袋がまぎれ込んでいた。
その袋の表には菅原道真公ゆかりの神社の名前が印刷されていて、中身は学業成就の御守りだった。
誰かがこっそり入れたようだが、では誰かとは誰だろう。探偵気分で教室内を見回し、だが矢木の様子をちらちらと窺うそぶりを見せるクラスメイトはいない。
程なく世界史の教師がやってきて、贈り主を突き止めるのは持ち越しになった。
手紙が同封されていないか、と机の陰で御守りをまさぐる。ふつうの護符に較べると、分厚いそれが入っているような感触に眉をひそめて、組紐をほどく。
護符を引っぱり出して目を瞠る。生き生きと葉を茂らせたポインセチアの写真を折りたたんだものが、忍ばせてあった。
三枝だ。
教室が無人になった隙に届けにきてくれたのだ。これをもらったのは、恐らく矢木ひとり──。
「矢木、頭の体操にみんなの前でアメリカ大統領の名前を初代からそらんじてみるか?」
小躍りするように椅子をがたつかせていた。
苦い顔をした教師に差し招かれて、市場に売られていく仔牛さながら、しおしおと黒板の前に進み出た。セオドア・ルーズベルトでつまずいて、ねちねちと嫌味を言われたのはさておいて。
三枝に直接、お礼を言いたい。
ロード中
ロード中
ともだちにシェアしよう!